Index Top 第3章 突入 |
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第4節 出迎え |
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「てことは、レジスタンスの場所も、ばれてるんじゃないか?」 「それは大丈夫だ」 軽く手を振って、レイは告げる。辺りに散らばっている監視カメラを順番に見つめてから、シリックとクキィを見やった。 「デウス・シティの市民は、その行動の八割をデウス社に掌握されている。だが、残りの二割は掌握しきれいていない。レジスタンスは、その二割の中で動いている」 「よく見つかりませんね」 クキィが呟く。 「レジスタンスは、俺が造られる十年も前からあったらしい。レジスタンスのリーダーであるラインって男は、図抜けた策士だ。あらゆる情報戦術を駆使して、ラインはデウス社の情報部から逃げおおせてきた。それに、ミストを筆頭にデウス社内部にも反乱分子はいるし、デウス社には迂闊にレジスタンスに手出しできないわけがある」 「わけ?」 「レジスタンスは、デウス社が行った不正の証拠データを持っている。そのデータが公表される恐れがあるから、デウス社はレジスタンスにむやみに手を出せない。一方、レジスタンスは、証拠データを公表した時に、デウス社が開き直って何をするか分からないから、データを公表できない。今までは、水面下で小競り合いをしてただけだが……」 言いながら、レイは視線を上げた。誰かが歩いてくる。 それは、三十歳ほどの金髪の女だった。着ているものはありきたりな服である。身長は百六十センチほど。足取りから、多少の戦闘訓練を受けていることが分かる。だが、武器の類は持っていないように見えた。小型の武器ならいくらでも隠せるが。 「誰だ!」 ノートゥングを構えて、シリックが女を睨む。 「安心して。私はレジスタンスのキニー。味方よ」 そう言って、キニーは微笑んでみせた。シリックに対して敵意がないことを示すように、両手を上げてみせる。敵意は見られない。 しかし、シリックはノートゥングを下ろさなかった。 「そんな言葉が信用できるか。味方のふりして後ろからバン、ってのはよくあるパターンだ。それに、現れたタイミングがよすぎるだろ」 それは的確な意見とも言えるだろう。シリックの言う通り、キニーは現れたタイミングがあまりにもよすぎる。まるで図ったかのように。 「今月中にあなたが来ることを聞いていて、私たちはデウス社のコンピューターをひそかにハッキングしてたのよ。そしたら今朝、あなたが街に来たことが分かった。さっき、検問の一箇所を壊したでしょ。タイミングがよすぎるのには反論できないわね。監視カメラの映像を辿りながら、あなたを見つけたんだから。今、周囲のカメラの映像をごまかしてあるわ。時間がないから早くして」 懐疑の視線を向けるシリックから目を離し、キニーはレイに目を移す。 「ミスト博士から聞いているわ。あなたは、アンドロイドなんでしょ。だったら、私の言うことが嘘じゃないって分かるんじゃない?」 からかうように言われて、レイは気楽な笑みを浮かべた。 「呼吸、声、心拍数、体温……乱れなし。君は、嘘を言っていない」 「そうでしょ。レジスタンスの隠れ家まで案内するから、ついてきて――。と、その前に、誰なの……この二人?」 言いながら、キニーはノートゥングを持ったシリックと、周囲を警戒しているクキィとを順番に指差した。自分が来ることは伝わっているだろうが、この二人が一緒に来るということは誰も知らない。 「俺の仲間だ。時間がないなら、早く連れて行ってくれ」 「分かったわ」 頷いて、身体の向きを変えるキニー。 しかし、その左腕をレイは掴んだ。掴んだと言うよりは、思い切り握り締めた――と表現する方が正しいだろう。それこそ、骨が砕けるほどに。 「ッ!」 「どこにでもあるアンドロイドなら、さっきの台詞を言っただろうな。嘘を言っても身体的な乱れが現れないように訓練したようだが、あいにく俺はアンドロイドの機能に頼りきっていない」 口を動かしながら、目を細める。 「剣士たるもの、自分の力を過信してはいけない――」 キニーは何も言わない。レイは一人で続けた。 「君は、レジスタンスの人間じゃない。デウス社情報部の情報員だ。任務は、レジスタンスのふりをして、俺を罠にはめること。古典的と言えば古典的だが、有効な戦法と言えるだろう。俺が気づかなければな」 「私は、レジスタンスよ……。放して……」 「呼吸、声、心拍数、体温……乱れあり。君は、嘘を言っている」 レイは掴んでいた手を放し、すかさず首筋に手刀を入れた。これで、相手を気絶させるにはコツがいる。弱すぎれば気絶しないし、強すぎれば脊髄に損傷を与えかねない。キニーはきれいに失神したらしい。仰向けに傾いていくのを、両腕で受け止め、 「予定とは違ったが、レジスタンスの居場所は分かりそうだな」 そう言ってから、レイは手を離した。キニーはアスファルトの道路に倒れる。しかし、指一本動かさない。数時間は目覚めないだろう。 レイの左手には、白い板と白いペンが握られていた。箱は、大きさも厚さも文庫本ほどで、液晶モニターとボタンがついている。キニーの懐から抜き取ったのである。 「何だそれ?」 シリックが珍しそうに、板を見つめた。見方によっては、携帯用ゲーム機にも見えるだろう。しかし、これは携帯用ゲーム機などではない。 「パソコンだ」 「これが、パソコンなんですか?」 驚いたようにクキィが呟いた。箱型のデスクトップパソコンや、ノート型のモバイルパソコンしか知らないのだろう。しかし、世の中にはこのようなパソコンも存在する。 操作用のペンを使ってパソコンを操作しながら、レイは呟いた。 「通称、ポータブルパソコン。特殊部隊や情報員が愛用する代物だ。こう見えても、家庭用パソコンの数倍の記憶量と演算力を持ってる。お……やっぱり、記録してあったか」 持っていたポータブルパソコンを懐に納め、二人に向き直る。 「レジスタンスは東G地区のどこかにある。行くぞ」 |
13/2/17 |