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第3節 そこは壊れた街


「何が……気づかれてたんだ?」
 立ち上がった二人がよたよたと歩いてきた。
 レイは爆破した扉から、五百メートルほど離れた地点を示す。
 そこには、軽甲冑のような強化スーツと重火器で武装した警備官十五人と、最新型戦闘用ロボット――イータ五体が待機していた。それらの銃口は、粉塵漂う扉があった場所へと向けられている。
「何で、武装した人たちがここにいるんです?」
 クキィが声をひそめて呟いた。ここに警備官や戦闘用ロボットが待ち構えているのか、分からないのだろう。自分たちが、今日この扉を破って街に入ることは誰も知らない。
 だが、レイは告げる。
「俺が道のフェンスを壊したことが察知されていたんだろう。真正面から突っ込んでいたら、集中砲火を浴びていたな」
 そうすれば、シリックとクキィは死んでいた。二人を抱えていては、満足に防御もできず、自分も無事ではすまなかっただろう。
「どうするんだ?」
「そうだな……」
 シリックの問いに、レイは黙考して。
「炸裂弾、持ってるか?」
「ああ」
 言われて、シリックは懐からマガジンを取り出す。
「あの連中の前に、炸裂弾を撃ち込んでくれ」
「分かった」
 言いながら、手早くマガジンを差し替え、ノートゥングを構えた。引き金を引き、炸裂弾が撃ち出される。狙いは、それなりに正確だった。
 警備官の目の前で火柱が上がる。このような不意打ちを食らうとは思ってもいなかっただろう。熱風と爆煙にまかれて、警備官が右往左往する――
 その中で。
 イータの動きは速かった。銃弾の飛んできた方向から、自分たちの居場所を計算し、腕に装備された百ミリの砲口とバルカン砲を向けてくる。
「逃げるぞ!」
 言うなり、レイはシリックとクキィを抱え上げ、跳んだ。今までいたビルの屋上にロケット弾と何十発もの銃弾が撃ち込まれ、屋上が爆砕する。
 舞い上がる白煙を背後に。
(どうやって、レジスタンスに接触するか)
 レイは次々とビルの屋上を飛び移り、街の中央へと進んでいった。白く無機質なビルは徐々に大きくなっていく。街の中央では、百階建てを上回るビルが林立している。
 しかし、そのような目立つ所にレジスタンスの隠れ家はないだろう。秘密裏に行動するには、敵から見つかりにくい場所でなければらない。
(つまり、こっちからも見つけにくいってことか……)
 そんなことを考えながら、高層ビルの隙間に飛びこむ。三角跳びを応用して、レイは地面へと降り立った。抱えていた二人を下ろす。
 ビルとビルの間の路地。周囲に視線を向けてみても、人の姿は見られない。生物反応もない。近くに人間を含む動物はいない。
「街中であんなもんぶっ放して、何考えてるんだ――!」
 息を荒げながら、シリックが八つ当たり気味に叫んだ。いきなり、ロケット砲にバルカン砲など撃ち込まれるとは思っていなかったのだろう。
「俺を倒すことしか考えてないだろうな。それで、建物が壊れようが、誰かが負傷しようが構わない。ここはそういう所だ」
「何なんですか……この街は?」
 周りを見回しながら、クキィが眉を寄せる。何か異質なものを感じ取ったのだろう。この街は単なる大都市ではない。
 レイは背負ったテンペストを直しながら、言った。
「表からは分からないが、この街は狂っている。たとえば、この街の犯罪発生率は同規模の街に比べて極めて低い。実質的にゼロだ。このおかしさが分かるか?」
「…………」
 返事はない。シリックとクキィはお互いに顔を見合わせただけだった。田舎育ちで、正常な大都市を見たことのない二人にとっては、理解できないのかもしれない。
 レイは自分で答えた。
「街は、大きくなれば自然と歪みが生まれてくる。普通の街は、それを正そうとするんだが、歪みの正しきるほどの力はない。だが、このデウス・シティは街の歪みを完全に消すほどの力を持っている」
 と一息ついて、
「この街の警備官は、過剰とも言える装備をしている。サイバースーツに特殊自動小銃、小型ロケット砲にレーザーナイフ。これは、軍隊の装備に匹敵する。その訓練も軍隊級。この街の警備官は実質デウス社の私兵だ」
 いざとなれば、兵士として動くこともできる。それが、デウス・シティの警備官だ。現在は、侵入した自分たちに対して、警備官は兵士として動いている。
 レイは続けた。
「デウス・シティの市民は完璧な安全が保障されている。だが、その代償は高い。市民はその日常背活における行動の八割を、デウス社に掌握されている」
「そんなことが、できるのか……!」
 信じられないとばかりに、シリックが呻く。一企業が二十万人の人間の行動を掌握するというのが、想像できないのだろう。
「できるんだよ、デウス社には……。街の中は常に監視され、電話、手紙、メール……そういったものも、例外なく監視を受けている。ここから見えるだけでも、マイク内蔵の監視カメラが四台ある。監視網に死角はない」
「何だと!」
 慌てたように、シリックは周囲を見やった。が、監視カメラは見つからない。この街に設置された監視カメラは小型で、隙間などに隠されている。人間には見つけられない。
「じゃあ、わたしたちがここにいること、デウス社の人たちにばれてるんですか?」
「そうなるな」
「待て」
 思いついたように、シリックが手を上げた。

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13/2/11