Index Top 第2章 それぞれの目的 |
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第9節 時間の意味 |
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構わず、レイは話を続けた。 「俺を作ったのは、ミスト・グリーンフィールドっていう天才ロボット工学博士だ。おそらく、君たちに金と手紙を送ったのも彼女だ。ミストはデウス社に雇われて俺を作ったが、彼女は俺をデウス社に対する切り札とした。俺はデウス社を脱走し、五年後に戻ってくると約束した。ミストはその五年間で、デウス社を潰す準備をすると言っていた」 「じゃあ、ミストって奴がオレたちに送った手紙に『復讐するなら七年待て』って書いたのも、あんたと一緒にデウス・シティに来させるためか?」 「逆だ」 シリックの意見を、レイは一蹴する。 「ミストは君たちに復讐をさせないつもりだった。七年『以上』待て、と書いたのも、君たちが動く前に俺がデウス社を潰すと予定してたからだ。いなくなった相手に、復讐することはできないだろ?」 「…………」 黙するシリック。 「だが、俺は諸々の事情で、デウス・シティに向かうのが遅れた。君たちは、予定より早く動き出した。そして、お互いに出会ってしまった。俺は、一週間だけ君たちの面倒を見ると約束した」 朗々と言葉を連ねて、レイは言い切った。 「剣士たるもの、決して約束を破ってはいけない――。デウス社に復讐したいというならば、俺についてこい。ただし、俺にはミストとの約束もある。自分でできることは、自分でやってくれ。それと、都合よく復讐できるとは考えないでほしい」 「分かった」 「ありがとうございます」 頷く二人を見てから、レイは缶詰を掴んだ。 缶詰の中身はほどよく温まっている。スプーンで一度かき混ぜてから、レイはすくった中身を口に入れた。味付けは濃い。 (できれば、復讐なんてさせたくないんだが。どうやって、復讐を諦めさせるか……) これから起こる出来事に覚悟を決め、空を見上げる。 空は漆黒に染まり、数え切れないほどの星が浮かんでいた。 全面が特殊合金の壁で覆われた無機質な部屋。広さは体育館ほど。正式には、第十四実験室と言う名前だが、その名で呼ぶ者は少ない。皆は、テスト室と呼ぶ。俗称通り、ここでは製作した戦闘ロボットのテストが行われている。 ケックは腰に刺した鞘から一本の細剣を抜き放った。 刃渡りは七十センチ。幅は十五ミリと細い。ただし、ただの細剣ではない。 前方には、汎用型最新戦闘用ロボット・イータが十体が佇んでいた。戦車すら潰すほど火力と、徹甲弾でも傷つかない装甲を持つ、強力なロボット。 生身の人間がいくら束になっても勝てる相手ではない。 だが……。 ケックは後方に控えている九人の部下を見やった。 自分と同じように、全員が黒い戦闘服を身にまとっている。右手には細剣を取り出していた。その瞳からは、感情は読み取れない。 「制限時間は一分。無傷でイータ十体を破壊する。これは、実戦だと思え――」 告げて、ケックは正面に向き直る。 「開始!」 その合図とともに、イータが動き出し。 ケックと部下たちは、人間にはありえない速度で飛び出していた。 |
13/1/13 |