Index Top 第3章 突入 |
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第1節 突き破れ |
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砂漠に引かれた一本の黒い道。 レイの運転するジープはその道を走っていた。 デウス・シティまで続く道路である。二車線道路だが、道幅は広く大型トレーラーでも悠々と走ることが出るだろう。道の両側は、防砂用のフェンスが並んでいた。この道に入る時は、フェンスの一部を壊したのである。 視線の先には、巨大都市の影が浮かんでいた。 「デウス社について、知っていることを教える」 ハンドルを操作しながら、レイは口を開いた。 険しい面持ちでノートゥングの手入れをしていたシリック。無表情のまま、デウス・シティの影を見つめていたクキィ。二人が視線を向けてくる。 しかし、言葉は発しない。 「デウス社は、百二十年前にウェイ・クラウンが創った会社だ。デウスとは大昔の言葉で、どこぞの神を示す単語らしい。始めの頃はどこにでもある中規模企業だったが、ウェイの努力によって世界屈指の大企業へと成長した。そこまではよかったんだが……」 二人が聞いていることを確かめ、レイは続けた。 「ウェイが引退した後、二代目の社長を務めたのが……クロウ・ガンド。こいつがいけなかった。クロウは野心が強すぎたんだ。そのせいで、デウス社は一企業の枠を超え始めた。ここから、デウス社の暴走が始まる」 それから、デウス社は企業としても組織としても、巨大化――というよりも、肥大化していく。あらゆる方向へと取引の手を伸ばしていった。それは表の世界に止まらない。公にはできない闇の組織との商売も始める。 「現在の総資産は、五兆クレジット。それは国家予算に匹敵する。だが、これは公式なもので、非公式なものも含めれば、その五倍は下らない。企業としては世界最大。世界中の九割の企業、組織につながりを持ち、政府に対しても対等の力を行使できる。国際政治に直接干渉することはできないが、その方向を変えさせることはできる」 「凄い、ですね……」 慄いたように、クキィが呟いた。デウス『社』という単語だけを聞いて、大きな会社としか思っていなかったのだろう。だがデウス社は、クキィの想像を超えている。会社という枠はとうの昔に捨て去っていた。 「だけど、オレは絶対に復讐をやり遂げる……」 ノートゥングにマガジンを差し込みながら、静かにシリックが独りごちる。復讐する相手を眼前にして、復讐しか目に入っていない。 「もはや、デウス社は企業と言うよりも、国家に近い」 二人の姿を見ながら、レイは言った。表には出さないが、複雑な思いが胸を満たす。 「自治都市デウス・シティは、二十五年前に前社長のエディエ・クイーゼンが造り上げた。人口は約二十万人。街そのものが、デウス社を中心とした小国家とも言えるだろう。街の周りは、高さ十五メートル、厚さ三メートルの特殊合金の壁に覆われていて、城塞都市との異名もあるほどだ。外部へ通じる扉には検問が設置され、入るのは容易じゃない」 「なら、どうやって街に入るんです?」 クキィが訊いてきた。無許可でデウス・シティに入るだけでも、それこそ要塞を攻略するほどの手間がいるだろう。小手先の技でどうにかなるものではない。 「検問の扉を爆破する」 レイは告げた。 デウス・シティとの距離は徐々に近づきつつある。 「どうやって、その扉を破すんだ? 厚さ三メートルの壁なんて、あんたの剣でも斬れないだろ。それに、爆弾を使っても傷ひとつつかないだろ」 「特殊な爆弾を使う」 シリックの意見に、レイは肩越しに荷台を示した。 「物質分解爆弾。AATのひとつだ。俺のテンペストの刃に使われている、オリハルコンのような原子間結合力特異強化処理のしてある物質以外、問答無用で砂のように分解してしまう。壁を越えることは難しくはない」 爆弾で爆破しなくとも、テンペストを打ち込んで穴を開けてしまうという手もある。それに、十五メートルの壁くらいは跳び越えられる。デウス・シティに入るということは、さほど難しいことではない。 「課題は、どうやって街のレジスタンスと接触するかだ」 「レジスタンス?」 シリックが繰り返す。 「そうだ。会社が巨大化し、なおかつ過剰な権力を持っていれば、必然的にそれに反発する人間が現れる。そういう人間が集まって作られたのが、レジスタンスだ。俺は、レジスタンスに合流になければならない」 「レイさん。レジスタンスがどこにいるか、知ってるんですか?」 「いいや」 レジスタンスの居場所が分かれば会うのに苦労はしない。だが、デウス社から隠れて行動している組織があっさり見つかるものではない。 「接触する方法は、自分で考えてくれって言われてる。レジスタンスには、俺が造られた時に、今年俺がデウス・シティに来ると言う情報を渡してあるらしい」 言いながら、レイは前方を見やった。道は一本道。遮るものはない。あと少しで、デウス・シティの入り口の門にたどり着くだろう。 「扉を爆破するのはレジスタンスに俺の到着を知らせるためだ。それから、場の状況を判断し、臨機応変に対処する」 「ああ……」 シリックが頷く。 ふと思いついたように、クキィが訊いてきた。 「ところで、何でデウス社はレイさんのコアを狙ってるんです?」 |
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