Index Top 第2章 それぞれの目的 |
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第4節 これはつまり練習 |
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「十三剣技・五紅火!」 真下から振り上げた白刃が、建物の壁に設置してあったレーザー砲を縦に斬り裂いた。内部で小爆発でも起こしたらしい。砕けた部品が散らばった。レーザー砲を壊すのが一秒でも遅ければ、自分を含めた誰かが的にされていただろう。 テンペストを引き抜き、レイは告げる。 「こんな防御装置は、いくつか残っている」 「レイさん、さっき『九割九分予想していた』って言いましたよね」 クキィが言ってきた。 「なら、この遺跡はハズレって分かってて、わたしたちを連れてきたんですか?」 「そうだ」 テンペストを地面に突き立てて、レイは頷く。自分はこの遺跡がハズレだと知っていて――知っていたからこそ、二人を連れてきた。 「何で、ハズレの遺跡だって分かってんのに、オレたちを連れてきたんだよ」 非難するように、シリックが言ってくる。騙されたと感じるのも仕方がない。言うべきことを言わないのは、騙すのと同じだろう。 しかし、レイは両腕を広げて、言った。 「AATハンターを名乗るからには、遺跡がどういうものか知っておかなければならない。素人が何の経験もなく、A級遺跡に挑むのは死ににいくようなものだ」 言ってから、周囲に転がった壊れたガーディアン、貫いたレーザー砲を示す。この遺跡を守るために作られた機械。 「調査されていないA級遺跡の警備は、この五倍から十倍はある。いくら俺だって、二人の素人を守りながら遺跡を調査するなんて、できない」 「だからって、何で何も言わずにハズレ遺跡に……」 言い返しかけたシリックの眼前に、レイは人差し指を突きつけた。貫くほどの眼差しで相手を見つめ、告げる。 「君たちに何があるかは知らない。何のために、AATハンターをやっているかも知らない。だが、君たちは素人だ。それすら満足に自覚していないような奴を、遺跡に連れて行くわけにはいかない」 一呼吸分の間を置いて、断言した。 「何よりも、自分が弱いという自覚を持て――!」 「弱いって自覚だと……」 戸惑ったように、シリックが繰り返す。 レイは続けた。 「強くなりたいなら、何より先に自分が弱いことを認めろ。自分が強いという慢心が隙を生み、その隙が死につながる。初心者の死因の大半がこれだ。自分の弱さを認めることで人はそれを補い、強くなることができる」 「…………」 考え込むような表情で、シリックは両手で構えたノートゥングを見つめる。それは、慢心の象徴とも言えるだろう。だが、それを見て何を考えたかまでは分からない。この先を考えるのはシリック自身だ。 レイはコルブランドを持ったクキィに目をやる。 「クキィ、さっきの君の動きは素人のものじゃない。本格的なものじゃないが、多少なりとも訓練を受けたものだ。どこで、剣術を覚えた」 ガーディアンの左腕を斬り落としたクキィの動きは、素人剣術のものではない。正統派の剣術の動きである。ただし、稚拙さが目立つが。 「本です」 クキィは朗らかに言ってきた。 「村にあった剣術の本を読んで、頑張って覚えました」 「なるほど」 剣術を覚えるには、誰かの手ほどきを受けるのが王道である。しかし、本の知識だけで覚えられないわけではない。とはいえ、やはり稚拙さが目立ってしまう。 二人を見つめ、レイは首を振った。 「よし、分かった。俺が君たちに戦い方を教えてやる」 「いいんですか?」 「剣士たるもの、無知な若者を放っておくわけにはいかない――」 そう言うと、ぼそりとシリックが言ってくる。 「昼も言ったけど――。若者って、あんた、オレたちとそんなに年変わらないだろ」 「もしかして、レイさん……。実は物凄く老けてるとか?」 「そういうわけじゃないんだが」 あさっての方に目を逸らし、レイは呻いた。自分は老けているわけではない。だが、どうしても、この二人は若者に見えるのである。 それはさておき―― 「いつまでも立ち止まってはいられない。行くぞ」 テンペストを引き抜き、レイは歩き出した。 「行くって、どこに?」 訊いてくるシリックに、テンペストの切先を持ち上げる。その先には、半壊した遺跡がたたずんでいた。足を進めているのも、この遺跡である。 「遺産の類がなくとも、警備装置が壊されていても古代遺跡に変わりはない。AATハンターたるもの、遺跡がどういったものか知っておかなければならない。もしかしたら、取り残された遺産があるかもしれないし――」 言いながら、レイは遺跡の方へと歩いていった。 振り返って、二人を見やり、 「早く、ついて来い」 「ああ」 「はい」 返事をして、シリックとクキィが小走りに走ってくる。 テンペストを肩に担ぎ、レイは遺跡を見上げた。 |
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