Index Top 第2章 それぞれの目的 |
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第2節 遺跡を進む |
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「遺跡にある危険性のふたつ目だ」 呟きながら、足元に落ちていた石を拾い上げる。口で説明するよりも、実物を見るほうが手っ取り早いだろう。手の中で石を動かしながら、 「遺跡には、ガーディアンとともに罠も張られている場合が多い」 レイは石を前方へと放り投げた。石は二メートルほど飛んで、閃光。 何もない空間で、粉微塵に砕け散る。人間の目には捉えられないが、どこからか飛んできた極細の荷電粒子砲が、石を砕いたのだ。 「―――!」 二人が目を見開く。 レイは何を思うでもなく、前方の空間を見つめる。 「テンペストの先に行けば、命はない。気をつけろ」 「何なんだ……今の!」 シリックが何もない空間を見つめる。 「遺跡にある典型的な罠だ」 レイは目を細めて、遺跡を見やった。距離は約三百メートル。そこから左右に視線を動かす。どこかに、狙撃装置があるはずだ。 「レーダーで敵を感知し、敵を粉砕するまで荷電粒子砲を撃ち込む。装甲戦車でも潰されることもある。人間には、防げない」 コルブランドをしまい、クキィが足元から小石を十個拾い上げた。試すように、それを放り投げる。小石はテンペストの横を通り過ぎ―― 閃光が瞬いた。小石十個が砕ける。 眉を下げて、クキィが訊いてくる。 「どうやって、この罠越えるんですか?」 「俺一人なら、何とかなるんだが……」 左手で頭をかきながら、レイは呟いた。 「A級遺跡に挑むのに装備や経験がいるのは、こういうわけだ。普通ならばレーダーを妨害するか、何かするんだが……。これは、ノートゥングを使って、ここから狙撃装置を壊すしかないか」 「それって、オレがやるのか?」 シリックが自分を指差すが、レイはため息をついて、 「望遠スコープもなしで、三百メートルも離れた場所にある数十センチの機械を見つけて、撃ち抜けるわけないだろ。望遠スコープがあっても、君じゃ無理だ。俺がやる――。ノートゥングを貸してくれ」 言われて、シリックは文句も言わずにノートゥングを差し出してきた。 レイはそれを受け取る。重さと重心を確かめるようにノートゥングを動かしてから、引き金に指をかけた。銃口を遺跡に向ける。 「なあ、狙撃装置を壊すって――あんた、見えるのか? ここから。三百メートルもあるんだろ? 望遠スコープもなしで……」 遺跡の周りを見ながら、訊いてきた。狙撃装置を見つけようと目を凝らしている。が、人間の視力で見つかるわけがない。 「俺の視力は人間離れしている」 そう言うと、レイは片膝をついた。銃など滅多に使わないので、手がうまく動かない。記憶をたどりながら、ノートゥングを構える。望遠スコープがないので見えにくいが、銃口の先には、狙撃装置があった。 引き金を引くと、炸裂音。腕に衝撃が伝わってくる。電磁場によって超音速まで加速された弾丸が、狙撃装置を貫通した。小さな爆発が起こる。 レイは銃口を動かし、六つの狙撃装置を粉砕した。 「これでよし」 吐息して、レイは立ち上がる。慣れないものを使ったせいで、肩がこった。ノートゥングをシリックに返し、テンペストを地面から抜き取る。 「大丈夫なんですか?」 「大丈夫だ」 言いながら、レイは足を進めた。狙撃は来ない。 五秒ほどの躊躇を見せてから、シリックとクキィが歩いてくる。 「それにしても、あんな罠があるなんて、よく分かりましたね」 コルブランドの光刃を出しながら、クキィが言ってきた。光も音も気配もないのに、罠を見破った理由が分からないのだろう。人間の目でレーダーの範囲を捉えることはできない。専用の機械を使うのが定石だ。 レイは口の端を上げると、 「俺は、色々と隠し芸を持っているんでね」 「何か怪しいな」 シリックが呻く。 「否定はしないが。おっと、そろそろガーディアンが動き出す。気をつけろ」 その言葉に、二人が緊張の色を浮かべた。 レイはテンペストの柄を握り直す。息を吸い、その刃を見つめた。澄んだ鏡の刃には、自分の顔が映っている。 それを見て、シリックが呟いた。 「なあ、あんた……本当にその剣だけで戦うのか? 銃とか使わないのか?」 「ああ。剣士たるもの、飛び道具などに頼ってはならない――」 「でも、大丈夫なんですか?」 クキィが訊いてくる。たかが剣一本でA級遺跡に挑むなど、常識的に考えれば正気の沙汰とは思えない。それは自覚していた。 だが…… 「俺はこのテンペスト一本でいくつもの死線をくぐってきた。まあ、見てろって」 レイはそう言うと、シリックの前に刃を突き出した。 |
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