Index Top 第2章 それぞれの目的

第1節 遺跡へ


 目的の遺跡から約七百メートルの所に、ジープを停める。
 レイは荷台から下ろしたテンペストを左肩に担ぎ、空を眺めた。太陽は西の空にある。時間は三時十分前。日没までには、三時間ほどあった。
 シリックとクキィが後部座席から降りる。シリックはいつでも撃てるように、ノートゥングの引き金に指をかけていた。マガジンに入っているのは、貫通弾である。クキィもコルブランドの青い光刃を出していた。
 臨戦態勢の姉弟を見ながら、レイは言う。
「準備はいいか?」
「ああ」
「できてます」
 答えを聞いてから、遺跡に目を向けた。
 白色の四角い建物。元はそれなりの高さがあったのだろうが、今では五階部分までしかない。上の階は壊れて、瓦礫となって散らばっている。しかし、千年三百年も昔の建物が砂漠の中で残っている方が特筆すべきだろう。
 レイはテンペストを荷台から下ろした。刃を肩に乗せる。
「俺が先頭を歩く。君たちは後をついてきてくれ」
 そう言って、歩き出した。
 慌てて、二人がついてくる。振り返ると、二人して周囲を警戒していた。お互いに、お互いの死角を補っているように見えるが、それぞれ見落としが多いので、一人分の効果も得られていない。
「さて、こういった遺跡――特にA級遺跡は、戦争時の軍事基地か軍事研究所であることが多い。当然ながら、遺跡を護る警備ロボット――ガーディアンが配備されてある」
 前方の遺跡を見ながら、レイは言った。これは、言うまでもないことである。が、言わないわけにはいかない。ガーディアンはこの遺跡にも配備されているだろう。
「だから、ノートゥングやコルブランドを持ってるんだろ」
 ノートゥングを動かしながら、シリックが言ってきた。遺跡の危険度とは警備の厚さとほぼ同意である。危険度が高い遺跡ほど、警備も厳重だ。
 レイは人差し指を動かして、告げる。
「だが、注意しなければならないのは、遺跡を警備するロボットもAATだってことだ」
「あ。そういえば、そうですね」
 手を打って、クキィが答えた。
 これは、意外と忘れがちなことである。初心者のAATハンターは、遺跡を警備するロボットもAATだということを忘れて、返り討ちに合うことが多い。
「ガーディアンの耐久年数は、平然と千年単位だ。現在でも、現役で動く。現代の最新兵器並の火力と装甲は標準装備。中には、空間圧縮に質量中和、自己修復機能まで持っているものもある」
 AATハンターの中には、このガーディアンを目的にする者もいる。構造や機能を解明し、技術として売るのだ。最新型の警備用ロボットには、遺跡のガーディアンの持つ機能を応用したものが多い。
「空間圧縮、質量中和って何です?」
「文字通りだ。詳しくはそのうち説明するとして」
 答えてから、レイは思考を巡らせた。説明することは、掃いて捨てるほどある。それを全部話すには、丸一日はかかるだろう。かいつまんで説明しなければならない。
 半秒で思考をまとめ、レイは言った。
「遺跡のガーディアンは、とにもかくにも頑丈だ。真正面から挑めば、動きを止めるだけでも、大型戦車を潰すほどの攻撃がいる。ノートゥングやコルブランドを使っても、機能を停止させるのは難しい」
 言葉を区切り、続ける。
「だが、コツを掴めば案外たやすく壊せる」
「コツ、ですか?」
 訊いてくるクキィに、レイは右手を上げた。
「ロボットに限らず、機械っていうのは、乱暴に言えば生物の構造を単純化させたものだ。コアから出された命令に従い、動力を伝えられた機構を動かす――。生物でいうところの、脳と心臓。理論上、どちらかを壊せばば、止まる」
「簡単だな」
 言葉通りの調子で、シリックが呟く。安物の機械なら、この方法で止めることができる。しかし、現実はそうそう甘くはない。
「これはあくまで理論上だ。遺跡のガーディアンとなると、補助動力を二つも三つも持ってたりする。コアもしかり。大口径の重機関砲を使うか、対装甲ロケット弾を何発か撃ち込むかして、内部構造ごと粉砕するのが確実なんだが……あいにくその手の重火器は持っていない」
「……何か、不安になってきた」
 ぽつりと呟くシリックに。
 レイは気楽に笑いかけた。
「安心しろ。俺がついてる」
 そう言ってから、立ち止まる。目に見えて、何があったわけではないが。
 肩に担いでいたテンペストを、レイは目の前の地面に突き立てた。
「止まれ」
 その言葉を聞いて、後ろを歩いている二人も足を止めた。止まったわけが分からないらしい。理解できないといった面持ちで、テンペストの先を見ている。
「何だ?」
「どうしたんです?」
 二人して訊いてきた。

Back Top Next

12/10/28