Index Top 第4章 物語は急展開する |
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第8節 暴走する狂気 |
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セイクは何の前触れもなく、目を覚ました。 白い天井に白い壁、自分が寝かされているのは白いベッドだった。上体を起こし身体を見下ろすと、白い服を着ていた。入院患者が着るものである。右腕には包帯が巻かれていた。鼻をつく消毒液の匂い。 「ここは、病院か……」 毒を塗ったナイフを受け、一度は死を覚悟したのだが。 どうやら、誰かが傷を治療して、ここに運んだらしい。意図は明確である。クオーツ研究所の情報を引き出すためだろう。もしくは、純粋な善意かもしれない。シギたち四人の性格を考えれば、それもありえた。 どちらにしろ、自分は生きている。 「ハドロ所長……」 その研究目標に疑問を抱くようになったのは、いつ頃だろうか。覚えてはいない。しかし、自分は辞める決心もつかずに、研究所に留まっていた。 アルテルフ博士になりすます仕事を受けたのも、惰性にすぎない。手術で顔を整形し、髪を染め、半年の間アルテルフとして過ごしていた。 右腕の包帯を見つめる。 ナイフを受けた時点で、決心がついた。今こそ、自分のしたいように行動する時だ。 ……… 「ん?」 何かを感じて、セイクは思考を止める。 脳裏に何かが閃いた。 アルテルフ博士の家。そこで、何かが起こっている。自分はそこに行かなければならない。漠然とした直感が告げていた。 セイクはベッドから降りる。幸いにも身体は鈍っていない。 近くにあった靴を履き、廊下へと飛び出すと―― 目の間に剣を突きつけられた。 「セイク。お前をここから逃がすわけにはいかない」 軽鎧を装備し剣を持った若い男が言ってくる。格好からするに、この街の警備兵なのだろう。自分が逃げ出さないように、廊下で見張っていたらしい。数は十人。 セイクは間合いを取るように飛びのいた。 「すまないけど、私も行かなければならない。全員、倒させてもらいます」 その身体を青い神気が包む。 吐息とともに、セイクは飛び出した。 ダイナマイトに神気を込めて、導火線に火をつける。 「業火よ、我が剣となれ!」 シギの手の中でダイナマイトが爆発した。赤い炎が伸び、瞬時に凍ったように固まる。爆炎でできた、刃渡り百三十センチはある、長大な剣。 炎の剣を片手に、シギは横へ跳んだ。 その空間をエイゲアの爪が斬り裂く。シギは紙一重で相手の速度についていっているにすぎない。気を抜けば、身体の半分が持っていかれるだろう。 「火炎爆砕斬!」 シギが炎の剣をエイゲアに叩きつける。爆発とともに、真紅の炎がシギとエイゲアを呑み込んだ。並の家ならば粉々にできるほどの規模。人間がこれを食らえば、生きてはいられまい。爆風に、地面の砂が巻き上げられる。 炎から飛び出してきたシギは、肩ごと右腕がなくなっていた。それを追うようにエイゲアが飛び出してくる。その身体に、傷らしき傷はない。 「ハハハハ! 予想に違わぬ強さだ!」 激闘を繰り広げるシギとエイゲアを見つめながら、ハドロが哄笑を上げている。 アルテルフの屋敷は、跡形もなくなくなっていた。エイゲアが放った衝撃波によって吹き飛ばされたのである。一矢たちは、その直前に逃げ出していた。 「みんな、大丈夫かい?」 炎と爆風が渦巻く傍ら、アルテルフが周りを見やる。 「うん。大丈夫だよ」 埃を振り払いながら、メモリアが声を上げた。 服についた土をはたき落としながら、一矢も答える。 「こっちは何とか」 「あたしは平気よ」 マントの襟元に隠れたテイルが、手を上げた。 アルテルフは銃を抜き、ハドロに狙いを定める。弾倉に込められた六発の弾丸、それを僅か一秒で全て撃ち出した。ハドロは一矢たちに気づいていない。 弾丸はハドロに向かって飛んで行き―― 硬い音を立てて、弾き飛ばされる。 よく見ると、ハドロの周りに手の平大の透明な盾が六枚浮いていた。それが弾丸の軌道上に回り込み、弾丸を弾いたのである。 「オート・シールドの魔法か。考えたね」 アルテルフが呟いた。オート・シールド。名前からするに、自動的に発動者を守る魔法らしい。準音速の銃弾に反応し、それを防御できるとなると、剣や槍などの原始的な武器など通じないだろう。 盾が銃弾を弾いた音に、ハドロが目を向けてくる。 「生きていたか」 四人の姿を見て、驚いたように呟いた。最初の衝撃波で、屋敷ごと一矢たちを吹き飛ばしたと思っていたらしい。が、メモリアを見て、呻く。 「……メモリアがあらかじめエイゲアの接近を察知したのか」 しかし、アルテルフは聞いていない。 「ブラック・ブリッツ」 弾倉に新しい弾丸を装填し、アルテルフは弾丸全てを発射する。弾丸は、軌道上に回り込んだ盾に当たり、盾を砕いて消滅する。魔法を無効化する弾丸らしい。 「そう来たか」 ハドロが呪符を取り出した。 「シルバー・ブリッツ」 アルテルフが新たに弾丸を装填するが。 「危ない!」 一矢はアルテルフの腕を掴んで、思い切り後ろに引っ張った。 アルテルフがいた場所を細い衝撃波が斬り裂く。エイゲアが放ったものだ。一矢が腕を引っ張っていなければ、アルテルフは粉砕されていた。 「全く、外野は手間がかかるな」 エイゲアが、ハドロの傍らに移動する。 「まずい!」 身体中に深い傷を負ったシギが、一矢たちの元へと走った。だが、間に合わない。 エイゲアが両手を突き出す。 その手から、漆黒の衝撃波が放たれた。 |
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