Index Top 第1章 主人公を探せ |
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第4節 少し違う主人公 |
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メモリアが鋼の書を見つめる。 「何? その本?」 「鋼の書だ」 《言っているうちに、一矢たちは街の中央にある十字路に差しかかった。それと同じくして、左側の道から白ずくめの男が歩いてくる。えらく目立つ格好をしているが、違和感はない。男は一矢と一緒に歩いているメモリアを見つめ、 「メモリア!」 叫ぶように言って、駆け寄ってくる。 「あれ?」 鋼の書を閉じて、一矢は走ってくる男を見やった。 年齢は二十歳前後だろう。鋭利さを感じる顔立ち、原色に近い緑色の双眸、手入れのされていない銀髪を背中に流している。着ているものは、数枚の布を重ねたような独特の形をした半袖の上着。どこかの民族衣装らしい。丈夫そうなズボンを履いて、厚手のマントをまとっている。それらの色は全て白で統一されていた。首からは鎖に繋がれた鈍色の錠前を首飾りのように下げ、両手首に文様の刻まれた銀色の腕輪をはめている。 「シギさん」 走ってくる男に向けて、メモリアは手を振った。 「主人公、登場ね」 嬉しそうにテイルが呟く。 この男がシギ。自分が作り出す物語の主人公。メモリアが登場した小説の主人公、ギカに似ている。色使いは同じだが、漂わせている雰囲気は違う。 「メモリア、無事だったか。全く……あれほど言ったのに」 安心したように呟いてから、シギは一矢に視線を向けてくる。何かを探るような眼差し。質問というより詰問するよな口調で訊いてきた。 「お前は誰だ?」 「僕は一矢だ。書上一矢……」 たじろぎながら一矢は答える。 一矢を見つめながら、シギは言ってきた。 「ショガミ・イッシ? 妙な名前だな。で、何でお前はメモリアと一緒にいたんだ?」 「え……」 言葉に詰まっていると、代わりにメモリアが答える。 「イッシさん、別の世界からこの世界にやって来たんだって。でも元の世界に戻れなくて。シギさんなら何とかできるかもしれないって、シギさんを探してたんだよ」 それを聞いて、シギは胡乱げな顔を見せた。別の世界から来たと言われても、信じてくれるとは思えない。シギはメモリアほど素直ではないだろう。 が、シギはメモリアを見やり、唸った。信じられないといった口調ながらも、 「嘘……みたいな話だが、メモリアが言うんだから……嘘じゃないよな。だが、それを俺にどうしろっていうんだ? 異世界の行き来の方法なんて俺でも知らないぞ」 「でも、放っておけないよ。イッシさんもテイルさんも困ってるんだから」 一矢を示しながら、メモリアがシギに言う。心配してくれているらしい。 メモリアの声を聞いて、シギは眉を上げた。訊いてくる。 「テイル? 誰だそれ」 「あたしよ!」 言いながら、テイルがるマントの襟元から飛び出してきた。羽を動かしながら、自分を示すようにシギの目の前まで迫る。 「――妖精……!」 テイルの姿を見て、シギは囁くように叫んだ。 一矢はマントの中から鋼の書を取り出す。《辺りを見回しても、シギの声に気づいた者ばいなかったようだ。誰も自分たちに目を向けてこない。》 「人間と妖精が一緒にいるなんて……。なるほど。ただ事じゃないな」 緑色の瞳でテイルを見つめながら、シギは呟く。その顔には汗が滲んでいた。目の前のテイルを横にどけて、鋼の書をしまう一矢に視線を移す。 「イッシとか言ったな。何が原因でこの世界に来たのか、分かるか?」 「全部理解してるわけじゃないけど……」 左手で頭をかきながら、一矢はマントから鋼の書を取り出した。鉄色の厚い本。表紙には何も書かれていない。 それをシギの前に差し出し、一矢は告げた。 「この鋼の書に触ったら、この世界に引きずり込まれ――」 「鋼の書、だと!」 目を見開き、シギが叫ぶ。その声に、テイルが慌てて戻ってきた。誰かに見られるかと思ったのだろう。一矢のマントに隠れる。 シギの声に、周囲の人間が視線を向けてきた。 いくらか落ち着きを取り戻した様子で、シギが言ってくる。 「こんな人気の多い場所で話はできないな……。宿を取ってある。ついて来てくれ。詳しいことは、そこで話そう」 歩き出すシギを追うように、一矢とメモリアは歩き出した。 |
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