Index Top 第1章 主人公を探せ |
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第3節 魔法と気術と異能力 |
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人を探すと言っても、言っただけで見つかるのならば苦労はしない。 時間が飛んだ感触にむず痒さを覚えながら、一矢はメモリアと一緒に街を歩いていた。テイルはマントに隠れている。 「シギさん、どこにいるのかな?」 辺りを見回しているメモリアに、一矢は言った。 「すぐには現れないと思うぞ」 この世界は小説なのだ。場面が切り替わった直後に、目当ての人物が現れるとは思えない。鋼の書を使っても、取り消し線が引かれるだろう。 視線を向けてくるメモリアに、一矢は告げた。 「何か、雑談してれば向こうから現れるんじゃないか?」 「何で、そう思うの?」 「世の中、そんなもんだろ。多分」 無責任に言ってから、一矢はメモリアから目を外した。マントに隠れているテイルに問いかける。周囲の人間や、メモリアには聞こえないほどの声音で。 「なあ、テイル。鋼の書でシギを呼び出すには、どれくらいかかると思う?」 「そうね。八十行くらいはかかるんじゃない?」 「何、話してるの?」 覗きこむように身体を傾け、メモリアが訊いてくる。内緒話は気になるだろう。 一矢はごまかすように手を振った。 「こっちのことだよ」 メモリアが深く訊いてくる前に、話題を変える。 「この世界について訊きたいんだけど」 「うん」 という返事を聞きながら、一矢は考えた。この世界は自分が無意識に作り上げたもの。ある程度のことは推測できる。しかし、一人歩きしているとなると、設定や細かい部分が変わっているだろう。 その設定を知らなければ、物語は作れない。 (訊きたいことは沢山あるけど、メモリアに答えられるかな。設定だと、メモリアの知識量はそんなに多くなかったから) 一矢はメモリアでも答えられそうなことを考え、尋ねた。 「この世界には、魔法ってものがあるだろ?」 「うん。でも――」 「でも?」 オウム返しに訊き返すと、メモリアは答えてきた。 「でも、魔法だけじゃないよ」 「魔法だけじゃない?」 呻いて、一矢はマントに隠れたテイルに囁きかけた。この世界にある特殊能力は、魔法だけだと思っていたのだが。 「僕が今まで書いた小説には、魔法しか出してないぞ。ややこしくなるから……。他に特殊能力を考えたことはないのに、何であるんだ?」 テイルは呆れたように息を吐くと、言い聞かせるように言ってくる。 「だから、何度も言ってるでしょ。この世界は、あなたの小説であって、あなたの小説でじゃないって。予想がつかないことが起こるのは当たり前よ」 その話を聞いてから、メモリアに目を戻す。 「魔法だけじゃないなら、他に何があるんだ?」 「気術と、特異能力だよ」 気術、特異能力。ともに今まで考えたこともない能力である。となると、魔法も今まで考えた魔法とは違うかもしれない。 「魔法、気術に特異能力。それって、どんなものなんだ?」 「え――全部!」 メモリアは後退るような仕草を見せた。全部、と言われるとは思っていなかったらしい。苦いものを食べたような表情で黙考してから、言ってくる。 「魔法は、魔力を使って望む現象を起こす方法、気術は神気を使って望む現象を起こす方法、特異能力は生まれついてもった不思議な力……だけど」 「大雑把だな――」 一矢は呻いた。この説明では、名前から想像がつくことしか分からない。知りたいのはその詳細なのだ。たたみかけるように訊いてみる。 「もっと詳しく教えてくれないか?」 「うーん」 メモリアは悩むように顔をしかめた。頭の上で何かがくるくると回っているように見える。何と言っていいか、考えているらしい。 たどたどしい口調で言ってくる。 「魔法は……精神エネルギーの延長の魔力を使う特殊能力――。魔力を媒介にして、色々な現象を起こしたり、存在しないものを具現化したり、物体の状態を変化させることができて……。他にも特定のものに、それが本来持っていない特性を付加することもできるんだよ。でも発動には、呪文や呪符や紋章や魔法陣がいるんだけど」 魔法の設定は、今まで使ってきたものとさほど変わりはない。発動方法が増えただけだ。気になるのは後のふたつである。気術と特異能力。 メモリアは数秒ほど黙考して、言ってきた。 「シギさんの話だと――気術っていうのは、身体エネルギーの延長の神気を使う特殊能力で。神気を直接相手にぶつけたり、武器や防具に神気を込めて攻撃力、防御力を高めたり、飛び道具なんかを自在に操ったりできるみたい……。自分の神気に、他の物体が持つ属性を写し取る、ってこともできるとか……。発動には、特殊な呼吸法がいるんだって」 「ふぅん……」 と、一矢は頷いた。いわゆる気功術のようなものらしい。効果からするに、気術とは魔法を対を成す特殊能力なのだろう。 「君は気術が使えるのか?」 訊いてみるが、答えは予想がついていた。この問いは単なる行数稼ぎである。シギが現れるまで、時間――行数を稼がなければならない。 「ううん。わたしは使えないよ。何でかは知らないけど、魔法と気術は一緒に使えないの。気術を使えるのは、シギさんだよ。シギさんの気術は凄く強いんだ!」 答えは予想通りだった。一人で両方の力を使えるのは、都合がよすぎる。この世界では都合のよすぎることは起こらない。極端なご都合主義はあり得ない。 一矢は続けて尋ねた。 「特異能力ってのは、何だ?」 「何万人に一人だけが仕える力。その力は先天的に決まってて、何もしなくても自然に発現するの。効果は、念動、透視、感知、反射、読心とか色々あるけど、一人が使えるのは普通一種類だけ」 これはすらすらと答えてきた。 「なるほど」 一矢は頷く。これで、この世界の特殊能力については分かった。 メモリアが思いついたように訊いてくる。 「イッシさんは、魔法とか使えるの?」 「使えないよ。僕ができるのは、書くことだけだ」 そう言って、一矢は鋼の書を取り出した。マントに隠れているテイルに目をやり、頷きあう。ここで八十行目。そろそろ頃合だろう。 |
11/9/25 |