Index Top 我が名は絶望―― |
|
第6節 力への生け贄 |
|
「やっと来たか――」 セインズは目を開けた。視線の先には、ディスペアと赤い服を着た少女、青い服を着た男の姿がある。待っていた三人。 座っていた切り株から立ち上がり、セインズは側に突き立てておいた黒曜の剣を手に取った。随分と待ったような気がする。だが、思ったよりも時間は経っていないだろう。大体、三十分くらいか。 黒曜の剣は、不気味な黒い輝きを宿していた。 準備は整っている。 「照らせ」 セインズは呟いた。 空間そのものが輝くように、光が満ちる。 そこは、来るときにはなかった開けた場所だった。街の数区画分の広さはあるだろう。地面は土が剥き出しになっている。そこに生えていただろう木々や下草は、全てなくなっていた。強力な魔法で薙ぎ払われたのだろう。 ディスペアが見つめる先には、黒曜の剣を持ったセインズが佇んでいた。 「セインズ……」 その姿を目の当たりにして、再び憎悪の炎が燃え上がる。憎しみに任せて飛び出しかけるが、何とか踏みとどまった。今の目的は復讐ではない。 「遅かったね。早く来てくれと言ったのに」 セインズは世間話のように言ってくる。 ディスペアはセインズが持つ黒曜の剣を見やった。最後に見た時と変わらず、漆黒の輝きを帯びている。人間の命を取り込んだ黒曜の剣。 黒曜の剣から目を離し、ディスペアはセインズを見やった。荒れ狂う心を可能な限り抑えて、声をかける。 「こんな所で待ち伏せして。その上、いちいちこんな広いさら地まで作って。一体、何を考えているんだ、セインズ?」 「ボクは君と戦いたい。それだけだよ。戦うには、広い場所がいるだろ?」 さらりと、セインズが答えた。 「俺と戦いたい、だと?」 「そうだよ。魔法も使えず、ボクの足元にも及ばなかった失敗作が、六百年の歳月を経てボクとそれなりに戦えるまで強くなったんだからね」 大仰な仕草で、両腕を広げて見せる。 「さっきは中途半端に終わってしまったけど、今度は全力で戦ってみたい」 セインズは黒曜の剣の剣先を向けてきた。 自分との距離は五十メートルほどだろう。接近するのに要する時間は約三秒。魔法なら、距離は関係ないが。 「そうか」 ディスペアは硝子の剣を持ち上げた。 セインズに斬り刻まれた傷は、ほぼ完治している。多少の違和感は残っているが、気になるほどでもない。これならば、十分動けるだろう。 「奇遇だな」 ディスペアは右足を引いて、硝子の剣を正眼に構えた。 「俺も、お前と戦いたかったんだ。お前の封印を解いてしまった責任を取るために、何としてもお前を殺さねばならない」 それを聞いて、セインズは笑ってみせる。 「何もない硝子の剣でボクを殺す気なのかい? 無理だよ。君がボクと戦うには、硝子の剣に命を取り込まなければならない。でなければ、さっきの二の舞だ」 「俺は誰かを犠牲にするつもりはない」 ディスペアは毅然と言った。 「命に代えてでも、お前を倒す!」 「そう言うと思ったよ」 セインズはため息をついてみせる。 「君はお人好しだからね。でも」 命の輝きを帯びた黒曜の剣を持ち上げ、 「禁断の技を使わないと、君の本気は見られない。本気じゃない君と戦っても、ボクは面白くないんだ。あっさり決着がついてしまうからね」 そう言うと、視線をミストに移した。空いた左手を上げる。何かを示すように、人差し指を伸ばした。その先には、ミストが立っている。 「だから、無理矢理にでも使わせるよ」 「!」 ディスペアはようやくセインズの考えを悟った。 が、遅かった。 「貫け」 セインズの指先から、細い光が放たれる。 光は音も立てずに空を走り…… 一直線にミストの胸を貫いた。 |