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第5節 作戦開始 |
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陽炎とルーは、校門の陰から校舎を眺めていた。 そろそろ三十分が経つ。始めの頃は言い合いの声や、何かが爆発するような音が聞こえてきていたのだが、今は静かだ。話し声すら聞こえてこない。 「あいつら、一体何者だ……?」 声をひそめて、陽炎は傍らのルーに問いかけた。ここから向こうの相手に声が届くとは思えないが、自然と小声になってしまう。 「分からないわ」 同じく小声で答え、ルーは首を振った。 校舎の正面玄関を指差し、 「ただ、左の方は武器を持ってる。剣と、多分……大きめの銃ね。右の方は丸腰、武器の類いは持ってないみたい」 「さっきの音は銃声か――」 納得しながら、陽炎は正面玄関に目を戻した。 人間離れした陽炎の視力を以ってしても、ここからではぼんやりとした輪郭しか見えない。普通の人間と同じくらいの視力のルーでは、影すら見ることができないだろう。しかし、ルーは相手が見えなくとも、ある程度様子が分かるのだ。 (便利な能力だな) 胸中で感心してから、陽炎は再びルーに目を向けた。 「ティルカフィはどこにいる?」 ルーは人差し指をやや左に移動させ、 「玄関から二つ左の部屋よ」 「無事なのか?」 続けて訊くと、なぜか確信のない口調で、 「ええ……。特に怪我をしてる気配はないし、拘束されてる様子もないわね。けど、じっとして動かない。何だか、眠ってるみたいね――」 「眠ってる……?」 訝しげに陽炎は頭をかいた。状況がさっぱり把握できない。玄関前にいる二人組が何者なのか、なぜティルカフィと一緒にいるのか、そもそもあの二人は敵なのか味方なのか。分からないことが多すぎる。 「これから、どうするの?」 ルーが視線を向けてくる。 「このままここで眺めてるわけにもいかないでしょ」 「そうだな――」 呻いてから、陽炎は背中の大刀を抜いた。材質は超硬強化鋼。石に叩きつけても刃毀れしないほどの頑丈な代物である。武器としての性能は非常に高い。 「複雑な作戦を考えてる時間はないな。俺が真正面から行って、玄関前の二人を引きつけてるから、その隙にお前がティルカフィを連れ出してくれ」 そう告げて、陽炎は校庭に足を踏み入れた。 「分かったわ」 言い残して、ルーは横へと走っていく。 陽炎は正面へと目を向け、口元を引き締めた。 「さて、行くか――」 大刀を一振りして、歩きだす。 |