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第1章 秋雲は艦息の夢を見るか |
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前回「at 足柄」のあらすじ 「提督、私の妹の身体であまり羽目を外してはいけませんよ」 「はい……」 「足柄も私がいないからといって、後先考えずにお酒飲みすぎたり、提督に変な事言って困らせてはいけませんよ。特に酔った勢いで提督に身体貸したりとかは、特に」 「はい……」 「あと、艦隊内の風紀のために、記憶処置はやっておいて下さいね。足柄に意識転移できるなら、精神干渉も可能なはずです。足柄は恥ずかしがり屋ですから、後日冷静になってのたうち回られても困りますので」 「はい……」 |
高く澄んだ青空に空に羽のような雲が浮かんでいる。穏やかな秋の空。海から流れてくる風は、ほんのりと肌寒い。もうじき冬になるだろう。 窓の外を眺めて物思いにふけっていたツクモ。 「ていとく」 「ん?」 声を掛けられ我に返る。 視線を動かすと、いつの間にか緑色の髪の少女がいた。駆逐艦夕雲である。 「秋雲さんの事で相談が」 と、言ってきた。 ツクモは一拍考える。最近虚ろな目付きで乾いた笑みを浮かべて、基地内をうろうろしている事の多い秋雲。理由は容易く想像が付いた。 「冬の祭典に出す原稿のネタが浮かばないらしいな。俺はそういう事は管轄外だぞ」 「でも、提督にしかできないこともありますから」 そう言って夕雲はどこか妖艶に微笑んだ。 「いやな予感しかしない……」 ガチャ。 ドアを少し開け、秋雲は暗い部屋に半身を差し込んだ。 部屋の中をきょろきょろと見渡す。何列かの金属棚が並んでいる。ネジやピンから艤装のパーツなどをしまっておく部品倉庫。人の気配はない。妖精さんの気配もない。 「ここなら誰もいない、と」 するりと身体を差し入れ、ドアを閉める。 ドアから少し足を進めてから、秋雲は近くの棚に背を預けた。 ゆっくりと息を吸い込み、秋雲はポケットから手鏡を取り出す。それから数秒の躊躇を置いてから、スカートの下に手を入れ、ストッキングとショーツをまとめて降ろした。 「よっし」 腹を決め小さく頷く。 そして、足を左右に開いて足の間に手鏡を差し入れ。 ガチャ。 前触れなくドアが開いた。 「……」 秋雲はそちらに顔を向ける。 作業着を着た長い髪の男がいた。中萩基地の提督下総ツクモである。艦隊指揮より装備の整備をしてる時間の方が長い、どこにでもいる地方基地の提督。艤装整備に使う部品を取りに来たのか。部屋に入ろうとした姿勢のまま固まっている。 「…………」 「………」 秋雲も固まる。 見つめ合う二人。 訪れる沈黙。 無限のような数秒。 「……」 ツクモは静かに下がり、音も立てずにドアを閉めた。 そして倉庫は元の姿へと戻る。 さらに数拍置いてから。 「うおおおおおぉぉぉぉぉあぁぁぁぁあぁ!」 倉庫を揺るがすような咆吼とともに、秋雲は動いた。おそらく今まで生きてきた中で最も速く。すぐさまストッキングを上げ、手鏡をポケットにしまい、全速力で駆け出し、ドアを叩き開ける。 「あー……」 そそくさと立ち去ろうとしていたツクモが振り返った。 「まぁ、こういう事は誰でもある事だし……」 「提督うううううう!」 叫び声とともに飛びかかり、躊躇無くベルトに手を掛ける。 「待て、何を!」 「チ○コ見せろおおおおおお!」 戸惑うツクモに、秋雲は吠えた。 その瞬間、視界が跳ね上がる。両太股にツクモの腕が回されていた。目に映る部屋の風景が上下逆さまになっている。身体が激しく真上に振り上げられ、一転逆向きの加速度が襲いかかった。 「あっ」 何をされたか理解した時にはもう遅い。 「雷我爆弾〈ライガーボム〉!」 ガゴン。 秋雲は木箱の上に正座をしていた。頭には大きなたんこぶが出来ている。 「ネタが思いつかなくて……こう、何か刺激になるようなものがあれば……と。そういえば女の子のあそこって実際どうなってるんだろうかと思いまして、はい……。えっと、そろそろ書き出さないと締め切りがヤバいんです、マヂで」 「秋雲の会だっけか」 正面の木箱に座ったツクモが、そう呟く。 日本全国の秋雲と元秋雲に少人数の他の艦娘が加わって作られている大手同人サークル秋雲の会。主に年二回のイベントで分厚い薄い本を配布している。内容は日常四コマからエロにやおいまで幅広い、というか一貫性が無い。 「てなわけで、提督!」 ぱんと両手を合わせて、秋雲は頭を下げた。上目遣いにツクモを見やり、 「ちょっと触手生やしてみてくんない?」 「待て……! 何を言ってるんだ、お前は」 「提督って触手生やせるんじゃないの?」 驚きの声を上げるツクモに、秋雲は瞬きを返す。 若干逃げるように身体を引きつつ、ツクモが目蓋を落半分とす。 「……お前たちの間で、俺はどんなエロモンスターになってるんだ?」 「んー」 秋雲は顎に手を当て、視線を持ち上げた。基地内で噂されれるツクモの特殊能力。詳細は不明だが、数ヶ月前に何かの理由で目覚めたと言われる。 「えっと、艦娘に憑依したり、入れ替わったり、精神操作したり、操り人形にしたり、ケモノ耳生やしたり、ふたなりにしたり、感度三千倍に高めたり、触手生やしたり、スライムになったり、分身したり、なんと奇遇なしたり」 「できるか! そんな事!」 ツクモは怯えたように顔を引き釣らせる。 「ですよねー」 秋雲は腕を組んで頷いた。 ツクモが妙な能力に覚醒したという話は聞く。艦娘に近い場所で仕事をしている人間には稀にあることらしい。ただ、内容は機密扱いされているため、正確な情報は不明だ。何かしら関わっている扶桑山城姉妹と、秘書艦の妙高は何か知っているようだが、三人とも口が堅いので話すことはないだろう。結果、噂が一人歩きしている。 大きく息を吐き出し、秋雲は立ち上がった。おもむろに制服を脱ぎながら、 「なら仕方ないよね! 提督、ちょっとこの秋雲と大人のプロレスごっこしない? なに、軽く子供の作り方実践するだけだから、実際どういう感じなのかとって――」 「…………」 ふらりと、ツクモが椅子から立ち上がり。 流れるような動きで、秋雲の背後に移動した。 「へっ?」 思考が反応するよりも早く、視界が跳ねる。身体を押し潰すような急激な加速度。胴体に回されたツクモの腕。上下が一瞬かき消え、身体が上空に跳ね上がり、そのままの勢いで床に向かって振り抜かれる。 「爆怒露斧〈バックドロップ〉!」 ガゴッ。 秋雲は木箱の上に正座をしていた。頭には大きなたんこぶがひとつ増えている。勢いよく脳天を床に叩付けられても、たんこぶ程度で済むのが艦娘だったりする。 「えっと、何かネタを下さい。お願いします」 秋雲は素直に頭を下げた。 いくらか躊躇するような仕草とともに、ツクモが口を開く。 「……まぁ、それなんだが、先日夕雲に頼まれてな」 「おおお!」 秋雲はぱっと表情を輝かせた。どのような経緯かはわからないが、夕雲からツクモに話が言っている。つまり、何かネタが貰えるという事だ。 ツクモはやや眼を逸らしつつ、口を開く。 「秋雲を男の子にしてやってくれ、と」 「はい?」 秋雲は目を点にした。意味がよく分からない。 ツクモはポケットから糸に吊された五円玉を取り出した。それを左右に揺らしながら、 「あなたはだんだん眠くな~る~」 「いやー、そんなの効く、わけ……な……」 言いかけたまま秋雲の意識は途切れた。 「はっ!」 秋雲は目を開けた。 身体を起こし、周囲を見る。 「あたしの部屋ぁ?」 そこは自室だった。艦娘寮の秋雲と夕雲の部屋である。画材道具の散らかった秋雲のスペースと、きれいに整理整頓された夕雲のスペースのコントラストが美しい。 「?」 秋雲は制服のまま自分のベッドに寝かされていた。さきほどまで提督のツクモと話していた気がする。しかし、そこから記憶が途切れていた。 「秋雲を男の子にしてやってくれ……?」 ツクモの言った言葉を思い出し、ふと両手で胸に触れる。 手に返ってきたのは、妙に硬い感触だった。手を上下に動かしてみても、柔らかさを一切感じない。秋雲はそれほど厚い胸部装甲は持っていないが、触れば十分に分かるほどには膨らんでいる。それが無くなっていた。 「マジで?」 手を見ると、自分の手のようで微妙に違う。妙に角張っていて、がっしりしている。 ポケットから手鏡を取り出して自分の顔に向ける。 「これが秋雲ォ? いや、秋雲さんだけどさ」 ポニーテールにした明るい茶色の髪の毛、緑色の瞳。自分の顔なのだが、男の骨格をしている。有り体に言って少年の顔立ちだった。 一度大きく息を吸い込み、吐き出す。 秋雲は覚悟を決めて、スカートをたくし上げた。 「まぁ、そうなるよねー」 白い水玉模様の青いショーツ。股間の部分に不自然な膨らみがあった。さきほどから違和感には気付いていたが、あえて無視していたのだが。 心臓の鼓動が早鐘のように鳴っている。 指でショーツの膨らみをつつくと、つつかれた感触がある。 さわさわ。 手でそっと撫でてみると、柔らかな感触と、触られた感覚が返ってくる。未知の部位を触られる感覚は、奇妙なものだった。 「本当に男になってるし……てか、まるっきり女装少年じゃなあないですか。まるっきり変態さんじゃないか。服装くらいはどうかしてほしかったな、もう」 両手で顔を押さえて、秋雲は呻いた。 どういう原理かは不明だが、秋雲は男になっている。服装はそのままに、身体だけ性転換してしまったらしい。ツクモが何かをしたのだろう。 「とりあえず、射……精、してみ、る……?」 秋雲はおそるおそる自分の股間に手を伸ばし。 そのまま硬直し。 およそ十秒固まってから。 何もせずに、秋雲は手を引っ込めた。 「待て待て待て……これ、どうすればいいんですか? 秋雲さんってばまだ心の準備が出来てない――っていうか、予想外すぎて何かする度胸無いっすよ、ホント……」 誰へとなく言訳を漏らす。 ガチャ。 「!」 秋雲は弾かれたように、入り口のドアを見た。 部屋に入ってきたのは、緑色の紙を三つ編みにした少女だった。夕雲である。 とことこと秋雲に近づいてくる。 「あっ、と……これは……」 秋雲は慌てて口を開くが、上手く言葉が出てこない。全身に冷や汗が滲んでいる。とにかく、今の状況を誤魔化さないといけない。 しかし、秋雲の焦燥とは対照的に、夕雲はにっこりと微笑んでみせた。 「どうかしら、秋雲さん。男性の身体というものは。気に入っていただけました?」 「えっ」 秋雲は気の抜けた声を漏らしてから。 改めて夕雲を凝視する。いつも見ている夕雲である。が、違和感があった。何がどうと具体的に言えるものではないが、何か違和感がある。 「もしかして、提督?」 「ふふ」 秋雲の問いに、夕雲は笑みを返すだけだった。 秋雲が座っているベッドの縁に腰を下ろし、言ってくる。 「どっちでもいいじゃないですか、そんな事は」 「どっちでもよくないと思うけど……」 秋雲は小声で言い返した。 |
18/11/24 |