Index Top つくもつき at 足柄

終章 妙高さんは知っている?

 

 とりあえず片付けをして、ツクモはソファにもたれかかっていた。
「やっちゃったなー」
「やっちゃったわねー」
 ツクモと足柄それぞれ呟く。
 特に何をするわけでもなく、ツクモは足柄のままぼんやりと天井を見上げていた。一気に気力が抜けてしまい、何かする気が起きない。賢者モードなどとも呼ばれる。
 時計は十一時を指していた。
 ピピピピ。
 突然電子音が響く。
「ん」
 ツクモは慌てて身体を起こし、ぱたぱたと身体を叩いた。上着のポケットに入っていた携帯通信機を取り、受信ボタンを押す。ほとんど反射的な行動だった。
「こんばんは、妙高です」
「!」
 通信機の向こうから聞こえてきた声に、固まる。出撃中の妙高だった。何を思ったか直接足柄に通信を送ってきたらしい。低機密情報伝達用の簡易通信か。
 ツクモは足柄の真似をして、通信に応じた。
「あら、姉さん。そっちの様子はどう? 魚雷カットイン決めてるかしら?」
「提督」
「………」
 一切の迷いなく放たれた言葉に、固まるツクモ。全身から冷や汗が吹き出す。
 そのまま妙高は続けた。普段と変わらない落ち着いた口調で。
「私の妹の身体であまり羽目を外してはいけませんよ」
「はい……」
 頷くしかない。
 妙高はごく当然の流れで、話を進める。小さくため息をついて、
「足柄も私がいないからといって、後先考えずにお酒飲みすぎたり、提督に変な事言って困らせてはいけませんよ。特に酔った勢いで提督に身体貸したりとかは、特に」
「はい……」
 足柄が返事をする。
 硬直するツクモと足柄を余所に、妙高はマイペースに続けた。
「あと、艦隊内の風紀のために、記憶処置はやっておいて下さいね。足柄に意識転移できるなら、精神干渉も可能なはずです。足柄は恥ずかしがり屋ですから、後日冷静になってのたうち回られても困りますので」
「はい……」
 無抵抗に頷く。
 ピッ。
 通信が切れた。
 天井を見上げ十数秒。
「解せぬ」
 ツクモと足柄はともに同じ言葉を吐き出した。

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18/11/16