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第1章 夜の来訪者 |
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前回のあらすじ 「提督って、艦娘に憑依できるってエロい特殊能力手に入れてたって聞いたんですけど。ちょっと北上さんに憑依して貰えません? それで、わたしとなめくじのようなレズプレイしません? おおむね三時間くらい。主に提督が責められる側で」 「カエレ……」 「せっかくだし、あたしの身体しばらく貸してあげるよ、提督」 「わたし、北上さんになってる……!?」 「そして、これはおまけ」 「なっ! 提督、北上さんの身体に何したんですか!」 「男のものを生やしてみました」 |
抱えたファイルを本棚に片付けていく。 「これで、終わり、と」 大きく吐息し、ツクモは背筋を伸ばした。 いつもと変わらぬ、提督執務室。白い壁に、白い床。執務机と秘書艦用机が置かれ、壁の本棚には基地の情報を納めたファイルが並んでいる。大きな基地や鎮守府ならば、もっと豪華なのだろう。しかし、小規模基地の執務室は、簡素なものである。 背中を軽く叩き、時計を見ると午後九時三十分。 腹を撫で考える。夕方に軽くチョコバーを囓ってから、何も食べていない。 「……腹減ったな。何食うか」 ツクモは視線を上げた。今日の分の仕事は終わったので、次は食事について考えないといけない。随分と腹が減っている。何を作るのは面倒なので、カップラーメンで済ますべきだろうか。 そんな事を考えていると、扉の外から足音が聞こえてきた。 「提督~! お夜食の差し入れに来たわよ~!」 扉が開き、艦娘が一人飛び込んでくる。 白いカチューシャで留めた、少しウェーブの掛かった焦げ茶の髪、紫色の制服と黒いスカート、白いストッキングという服装で白いエプロンを着けている。手袋は付けていない。持ち上げた右手の上に、四角いバスケットを乗せていた。 重巡洋艦足柄。妙高の妹である。 足柄はずかずかと部屋を横切り、バスケットを執務机に載せた。 「またカップ麺か何かで適当に済まそうとしてたでしょ? 疲れてるのはわかるけど、疲れてる時こそ、しっかりしたものを食べないとダメよ」 人差し指を立て、ツクモをじっと見つめる。 バスケットからは、ほんのりと美味しそうな香りが漂っていた。 「補給こそ全ての基本って言うでしょう?」 足柄は艦娘としての戦闘員だけではなく、食堂の料理長も務めている。小さい基地では、艦娘も戦闘以外の仕事をしないといけないのだ。エプロンをまとい、手際よく料理を作っていく姿は、まさに食堂のおばちゃんである。それを当人に言った秋雲が、生の千切りピーマンを口に押し込まれたりしているが。 「助かる。感謝するよ」 頬を緩め、ツクモは礼を言った。 足柄はにっこりと頷き、ツクモの前に両手を差し出した。満面の笑顔で言ってくる。 「お礼と言っては何ですけど、20.3cm三号連装砲☆10下さい」 「無理っす」 即答するツクモ。 数歩下がって、足柄は頭を抑える。 「無理よ、ね……わかってたわ。うん、こうなったら、飲むしかないわね!」 横に置いてあった紙袋から、日本酒の瓶を取り出した。 場所は移って休憩室。 それなりに広い部屋で壁には自動販売機などが並んでいる。入り口から見て右側には、テーブルと椅子が並び、左側にはソファとテレビが置かれている。 ツクモは椅子に座り足柄の料理を食べていた。バスケット一杯のサンドイッチ。ついでにコンソメスープである。夜食というよりは遠足のお弁当にお思える。 向かいの席に座った足柄。酒瓶とコップ、そして焼き鳥という晩酌装備になっていた。 「さー、今宵はいっぱい飲ませてもらうわよ」 楽しそうに笑いながら、足柄が酒をコップに注ぐ。コップを満たす、透明な液体。それを一口飲んでから、用意してあった焼き鳥を食べる。慣れた手付きだった。 ごくごくと酒を飲む足柄を眺め、ツクモは一応釘を指した。 「大丈夫か? あんまり飲みすぎるなよ?」 「ふふん。今日は妙高姉さんいないから、多少飲み過ぎても問題ないわ。頑張った自分へのご褒美は、奮発しないとね!」 ツクモに顔を向け、真顔で言ってくる。 「妙高さんには黙っておくよ」 苦笑いをしつつ、ツクモは小声で告げた。妙高がいたら、飲み過ぎになる前に止められているだろう。しかし、今日は妙高は出撃中だった。 足柄は小さく息をつき、視線を持ち上げ、 「姉さんたち、今どのあたりにいるかしら? 深海棲艦と戦ってるのかしら? 着弾観測射撃に、ほとばしる雷撃、夜戦連撃……魚雷カットイン……うぅ」 涙を流しながら、コップの酒を飲み干す。 フラグシップの戦艦と空母が出たとの報告を受け、妙高と扶桑山城、駆逐艦三人で今朝から出撃している。帰還予定は明後日の朝だ。楽勝とは言わないまでも、問題無く撃破して戻ってくるだろう。 「何で私はお留守番なのよぉ。勝利がッ! 私をッ! 待っているのにッ!」 叫んでから、酒瓶を咥えてラッパ飲みを始める。 戦う事が好きな足柄。強敵と戦い撃破する事に至上の喜びを感じる、餓えた狼。滅多に見られないフラグシップ戦艦空母は、是が非でも戦いたい相手だろう。 ツクモはサンドイッチを飲み込み、小さく吐息した。 「こないだの出撃で大破したからな。まだ艤装修理中だ。直るまであと一日かかる」 前回の出撃で雷巡チ級の雷撃を喰らい大破した足柄。現在艤装が修理中であるため、出撃は不可能だった。艤装の修理は工廠の妖精さんたちが大まかな修復を行い、ツクモが最終調整を行うという流れだ。 酒瓶を放し、足柄は口を尖らせる。 「バケツ使っちゃえばいいのに」 「バケツは溜めておきたい。高速修復材は貴重だからな」 破損した艤装を完全に修復する高速修復材。艦娘や艤装、また妖精たちが持つ自己修復能力を最大限引き出す因子である。貴重である事も含めて、無闇に使いたくはない。 「むーぅ」 足柄は渋い顔で、肩を落とす。 が、不意に何か思いついたように頷いた。 「ねぇ、提督」 にまりと不敵な笑みを浮かべつつ、視線を向けてくる。 スープを一口飲んでから、ツクモは応じた。 「……何だ?」 「ちょっと思ったんだけど、提督って私たち艦娘以外の女の子と話したり付き合ったりしたこと無いのかしら?」 「無いなー」 ツクモは目を閉じてから、苦笑いを浮かべた。 「中学の時だったか、先生――先代の提督にこの業界に引っ張り込まれて……後はひたすら勉強に訓練にその他諸々。学校で女の子に会ったりはしてるけど、恋愛なんてやってる余裕無いし、そもそも相手もいないし」 ぶつぶつと言葉を連ねてから、吐息する。 「で、気がつけば先生の後を継いで、提督になってたし」 それを聞いて足柄は何故かしたり顔で頷いた。そして真顔で言ってくる。 「私の身体少し貸してあげましょうか?」 「……」 目蓋を半分落とし、ツクモは足柄を見た。 ほんのりと顔を赤く染めたまま、足柄が続ける。 「なんだか最近疲れてるみたいだから、息抜きに、ね? 提督って艦娘に憑依する変な魔法覚えたって聞いたから。ちょっと私の身体で女の子を楽しんで貰おうかなって」 と、いやらしい笑みとともに、自分に胸を揉むような仕草をしてみせる。さほど酔っていにように見えたが、その実かなり酔っ払っているようだった。 「俺がこのまま直接触ったりするのはダメなのか?」 「イヤよ。恥ずかしいじゃない」 ツクモの問いに、今度は身体を守るように両腕を胸の前で交差させてみせる。 「そういう問題なのか……?」 「いわゆるひとつの乙女心ね」 と、片目を閉じてみせた。そういうものらしい。 ツクモはサンドイッチをひとつ食べてから、足柄に告げた。 「いや、遠慮しておく。そもそも無理だから」 「えー。なんでよー」 不満そうに唇を尖らせる足柄。 「色々あるんだよ」 「むー」 艦娘を構成する妖精に干渉するには、少なくとも相手にツクモ自身の要素が無いといけない。つまり、ツクモが建造した艦娘にしか干渉できない。そして、足柄は先代提督が建造した艦娘であり、構造上ツクモが干渉することはできないのだ。 おっとも、それは機密事項であるので、懇切丁寧に説明する気はない。 「そうねぇ……」 おもむろに、足柄が椅子から立ち上がった。テーブルを回ってツクモの前までやってくると、にまりと不敵な笑みを浮かべてみせる。ツクモの頭を両手で掴み、 「こういうのは、頭ガッツンすれば何とかなんとかなるのよ!」 「待て――」 慌てて足柄の手を掴み返すが、遅かった。 「せーのっ!」 ゴッ。 額に額を叩き付けられ、目の前に星が散る。 一瞬視界が白く染まった。喉の奥に響くような痛み。 「痛ぇッ!」 ツクモは腕を引き、額を押さえた。 目を開き……目の前に白い制服を着た、長い黒髪の男がいる事に気付く。自分自身の姿である。目から光が消え、意識喪失状態であるが。 とりあえず目を閉じさせ、身体をテーブルにうつぶせにする。 「何で?」 ツクモは自分の身体を見下ろす。焦げ茶のウェーブヘアーと、どこか修道服を思わせる紫色の制服。黒いタイトスカート。白いストッキング。 足柄である。 「何! 何これ!?」 突然、自分の口がそう叫んだ。 |
18/11/4 |