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中編 マヨイガのお願い


 布団の横に梢枝が座っている。
「何してるの?」
 颯太は梢枝を眺めた。巫女装束で畳の上に座っている。
 颯太は風呂から上がったところだった。用意してあった浴衣を着ている。
 時間は午後九時。夜中までネット三昧というのも不毛なので、今日は早めに寝ることにしていた。○比の○太並に、いつ何時でも即座に寝られるのが天性の特技である。夜型生活など、理解の外だった。
 さておき。
 颯太は冗談めかして笑った。
「一緒に寝てくれるとか?」
「そうですね」
 梢枝は頷くと、一言答える。
「夜伽です」
「よとぎ?」
 颯太は、オウム返しに訊き返した。相手に付き添い、夜通しで世話をすること。女が男の夜の相手をすること。通夜などで夜通し起きていること。
 それらの知識を並べてから、梢枝を見つめる。冗談だと思っていたことが、事実となっていた。身体中が熱くなり、喉が渇く。
「……何で?」
 気の抜けた問いに、梢枝は答えた。
「この屋敷を維持する力は、地脈から取られています。しかし、科学技術の発達により、屋敷の電化製品が増え、地脈だけでの屋敷の維持が難しくなっています。誰もいない間は維持出来るのですが、人が住むと維持出来なくなります」
 ようするに、エネルギー不足らしい。
 恐ろしく実利主義な返答である。健全な青少年として色々と妄想していたのだが、一瞬で打ち砕かれてしまった。心の奥に虚しさを感じる。
「そこで、あなたから精力を貰い、屋敷の維持に当てることにしました。可愛い女の子が相手なら大丈夫ですよね?」
 尻尾を動かし微笑む梢枝に、颯太は横を向いて独りごちた。
「何か興醒め……」
「では、血液か生肉を千グラムほど下さい」
 注射器五本と手術用メス五本を取り出し、真顔で言ってくる。
 颯太は逃げるように後ろに下がった。背中が壁にぶつかる。
 肉を切られるのも、血を抜かれるのも、どちらも身体に悪そうである。というか、疑問の余地無く危険。一キロも肉を削がれたら、その部位が使い物にならなくなる。一リットルも血を採られたら、確実に意識不明。というか、致死量。
「麻酔はしますので痛くはないですよ」
「精力でお願いします」
 颯太は素直に頭を下げた。
 梢枝は注射器とメスをどこへとなくしまい、立ち上がった。足音もなく、颯太の目の前まで移動する。思いついたように、質問。
「颯太さんって、童貞ですよね?」
「そうだけど……。文句ある」
 頬を引きつらせて、言い返す。中学生の頃に女の子と付き合ったことはあった。だが、キスをしただけで、別れてしまった。お互いに付き合うには幼かったのだろう。
「童貞の人がいきなり本番になっても勃たなかったりして、行為を行えないことがあります。というわけで、これをどうぞ」
 差し出されたのは、ガラスのコップ。
 中には、濃い焦茶色の液体。およそ百ミリリットル。そして、鼻を突く異臭。漢方薬のような匂いであるが、質と強さが違う。
「え……と、何これ?」
 冷や汗を流しながら、梢枝を凝視した。
「特別調合の精力剤です。蜂蜜なども入っているので、飲みやすいですよ。どうぞ、一気に飲み干してください。あ、媚薬のようなものではありませんので安心を」
「………」
 颯太は十秒ほど液体を見つめてから、覚悟を決めた。
 コップの縁に口をつけ、液体を口に含む。口の中に広がる甘さと、鼻に抜ける刺激臭。気合いとともに、一気に喉の奥に流し込んだ。
 コップを下ろし、大きく息を吐き出す。
「……意外と旨い」
 ぼそりと呟いてから。
 颯太はその場に腰を落とし、身体を抱えた。精力剤の効果はすぐさま現れた。ただの薬にこれほどの即効性はないだろう。だが、身体の芯が焼けるように熱い。
 股間のモノが、破裂しそうなほど勃起しているのが、はっきりと分かる。
「梢枝さん……。この薬絶対に危ないって」
「大丈夫です。死にはしません。では、いただきます」
 涼しげに呟くと、梢枝は颯太の前に腰を下ろした。
 颯太の浴衣をはだけ、トランクスを引き下ろす。
「ちょっ……!」
 天を衝くようにそそり立つ、颯太の男性器。今にもはち切れそうなほどに張詰め、びくびくと脈打っていた。普段よりも三割ほど大きいような気がする。
 逸物を手で撫でながら、梢枝は冷静に観察していた。
「うーん。薬の効果を除けば、普通サイズですね」
「さいですか……っあ!」
 梢枝が陰茎を口に咥え込んだ。
 未知の感触に、猛烈な戦慄が背筋を駆け上がる。男根を包み込む、柔らかな咥内。暖かさ。微かに粘り気を帯びた唾液。
「あまり早く出さないで下さいよ」
 上目遣いに言ってくる、梢枝。器用に喋っている。
 引きつった呼吸とともに、颯太は答えた。
「努力はするっ……ッッッぅ!」
 言い終わるよりも早く、梢枝は口技を開始する。
 口全体で陰茎を包み込みながら、蛇のように動く舌で、亀頭、尿道口、カリ首、裏筋を刺激する。フェラチオは初体験であるが、かなりの技量であることは容易に知れた。
 さらに、両手を使い、竿と袋を刺激する。
「ちょっ、出る!」
「あ。駄目です」
 梢枝が右手で竿の根本をぎゅっと握りめた。
 射精を強制的に止められ、颯太は仰け反る。
「おおぉぉ……!」
 苦悶の声を漏らすが、梢枝は聞いていない。
 梢枝は舐るように舌を蠢かせ、颯太の陰茎をひたすら嫐る。本人にとっては、美味しい料理を味わうようなものかも知れない。
 だが、イきたいのにイけないのは強烈な苦痛だった。
「た、頼む……梢枝さん。イかせてくれ、おかしくなる」
「仕方ないですね」
 梢枝は右手を緩めた。と同時に、今までよりも数段強烈な口技で陰茎を攻める。意識が跳ね、股間から脳天まで雷が駆け抜けた。
「うぉぉぉあああっ!」
 強烈な開放感とともに、梢枝の咥内へと精を解き放つ。
 痙攣するように腰を跳ねさせ、颯太は普段の三倍以上の精液を放出していた。これも薬の効果だろう。大量の精液が尿道を駆け抜け、数倍の絶頂感が脳を叩いた。
 射精は十秒ほどでようやく終わる。
「死ぬかと思った……」
 肩で息をしながら、颯太は天井を見上げた。
 梢枝は颯太のモノから口を離す。
 口の中に溜まった精液。喉を鳴らして、一口に飲み込んだ。口の中や周りに残った精液を、舌で残らず嘗め取り、満足そうに笑ってみせる。
「濃くて美味しかったです」
「……これで終わり?」
 期待半分、安心半分で訊く。
「いえ、全然。まだ出来るでしょう?」
 逸物の勢いは衰えていない。男の構造上、一度射精すれば終わりなのであるが、そうはいかないようである。
 梢枝は颯太にのしかかるように、身体を密着させた。
「次は、わたしを気持ちよくさせてくださいね」

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