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第21話 にわか雨 |
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黒く染まった空から大粒の雨が降り注ぐ。 「おあー!」 カイはミドリを抱えたまま、山小屋へと飛び込んだ。 掘っ立て小屋のような家。厳密に言うと山道の途中にある休憩所。一部屋分くらいの広さしかなく、置かれているものは長椅子がひとつだけだった。人通りの少ない山小屋に無理も言えない。 「山の天気は変わりやすいっていうけど、まさか十分も経たずに土砂降りになるとは思わなかった。今は乾期だってのに、反則だろこれ」 長椅子の埃を払ってから、腰に差していた剣を鞘ごと抜いて立てかける。 山道を歩いていたら、雲行きが怪しくなり十分程度で空が真っ黒になった。まずい、と思った時には小雨が降り出し、三十秒も経たずに一気に豪雨へと変化した。 「ミドリ、大丈夫か?」 「うん」 抱えたミドリが力無く答える。 日の光が差さなくなったことによって、天気と同じような勢いで元気を失っていた。夜のように眠ってしまうことはないが、意識は朦朧としている。いつだったか雨の日の元気のない様子を思い出した。 「晴れれば……元気になると、思う」 雨を長めながら、ミドリは眠そうに答えた。魔術の灯りを渡しておけば元気になるだろうが、理由がない限りは自然の光に任すべきだろう。 「多分すぐに止むと思うけどな。何分くらい足止めされるだろ? 腹減った」 ドアのない入り口から外を眺めて、カイは眉毛を傾けた。そろそろ昼の時間である。予定ではあと三十分くらいで着くのだが、この雨の中を走って行く気にはなれない。 「それよりも、ミドリは……夕立に弱いのか」 街中で降られれば、どこかに逃げる前に日の光が遮られて活動が鈍ってしまえば、豪雨の中に置き去りにされるだろう。一人で出歩かせなければいいのだが。 頭を振って髪から水気を飛ばしてから、ミドリを椅子に置く。 「しっかし、びしょ濡れだな。傘持ってくればよかった」 カイは上着を脱いだ。 雨の中を走ること五分。小雨程度ならどうということもないが、外の土砂降りはシャツまで濡らすのに十分の勢いだった。 何度か上着を振ってから、近くに置いてあった棒に引っかける。 両手でやや複雑な印を結んでから、両手を向かい合わせた。 「熱よ」 手の中に現れる赤い灯り。強い熱を持った光を作り出す魔術である。服を乾かすための魔術であるが、生地が傷む可能性もあるので滅多に使うものではない。 灯りを上着に貼り付けてから、カイは椅子に座った。 うとうとしているミドリを左手で拾い上げる。 「大丈夫か? 眠いなら、眠ってもいいぞ」 「うん」 こくと頷いてから、カイの手の平に横になり、目を閉じる。ミドリは真っ暗にならないと眠れないらしい。暗いとはいえ、雨天では眠れない。 カイは右手でそっとミドリを撫でながら、外を眺めた。 「雨止まないかなぁ」 |