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第22話 山頂の観測所


「こんにちはー」
「こんにちは」
 カイの挨拶に続いて、ミドリが挨拶をした。
 それなりに掃除された広間に脚を踏み入れる。ノノハ山山頂にある観測所。時々やって来る人のために、旅館としても作られているが、実際は大きな山小屋だった。
「おーう。あんたがカイか、あとミドリちゃん」
 奥の部屋から、ひげ面の男が現れる。
 年齢四十ほどで、やたらと屈強な体躯。灰色の髪と灰色の髭。頭にバンダナを巻いて、山岳迷彩の作業着を着崩している。絵に描いたような山男といった風貌。
「フェルさんから聞いてるよ。俺は山岳観測員のカルテ・リョウ。よろしくな」
 フェルの知り合いらしく、口も硬いのでミドリを見せても大丈夫らしい。
「はじめまして、カイです。これから三日間よろしくお願いします」
 カイは軽く一礼し、肩に掴まっているミドリを両手でそっと掴んだ。手の平を胸の辺りまで持ち上げて、リョウに見せる。
「こっちが妖精のミドリです」
「よろしくお願いします」
 ミドリがぺこりと頭を下げた。
 リョウはちらりと窓の外を見やる。さきほどの土砂降りが嘘のように晴れた空。白い雲がのんびりと流れていた。山の天気は本当に変わりやすい。
「さっきは通り雨降ってたけど、大丈夫だったか?」
「大分濡れましたけど、服は乾かしたし大丈夫ですよ」
 あれから二十分ほどで雨は止んだ。黒かった空があっという間に青空へと変わる。通り雨の主である積乱雲が、ため息を付くほど雄大だった。思わずメモ帳にスケッチしてしまったくらいに。
「それより、荷物はちゃんと届いていますか?」
「ああ、届いてるよ。でも、その前に少し休んだ方がいい。いくら体力あるからって、山歩きはきついだろ。フェルさんみたいな化物だったら話は別だけど……」
 視線を逸らしてぶつぶつと付け足すリョウ。フェルの超人伝説はあちこちで聞く。
 気を取り直すように咳払いをしてから、
「とりあえず、座ってくれ。ジュース持って来る。昼間から酒は不謹慎だしな。そうそう、ミドリちゃんは水しか飲めないんだってね」
 言われるままに、カイは椅子に座る。リョウが奥の部屋に消えた。
 ミドリをテーブルに置いてから、腰に差していた剣を外す。座る前に外すべきだが、手順が逆になってしまった。ぐったりと脱力した。
「カイ、大丈夫?」
 見上げてくるミドリに、カイは苦笑を返す。
「あんまり……。体力には自信あるけど、さすがに徒歩でここまで来るのはきついな。はしゃぎすぎたかな?」
「色々絵にしてたね。帰ったら絵に描くの?」
 ここまで来る最中、五回ほど立ち止まってメモ帳に下書きを描き込んでいた。立ち止まったまま絵を描くのは疲れる。描いている最中に疲労感はないが、集中が切れた途端に一気に襲ってくるのだ。
「一度見直してみて、合格がひとつ残れば及第点だろうな。今のところは、全部制作候補だから。絵を描くって言うのも大変なんだよ」
「そうなんだ。カイって凄いね」
 素直に感心してくれるミドリ。
「ありがと」
 笑いながら、カイは答えた。

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