Index Top 妖精の種

第5話 副会長フェル


「なるほど」
 フェルは仰々しく頷いて見せた。
 五十三歳と自称。長く伸ばした灰色の髪に、度の強い眼鏡に覆われた眠そうな茶色の目。丈の長い灰色の服を着ている。どこかコートを思わせる服。
 机の上に座ったミドリをじっと見つめる。
「私の渡した種から、妖精が生まれた……か?」
「はい」
 カイは頷いた。
 ミドリはじっとフェルを見上げている。物珍しげな眼差し。ミドリにとってフェルは初対面だが、未知のものを見つめるような目だった。
「何なんですか? この子、妖精なんですかね? 種から生まれる妖精なんて聞いたことありませんよ」
「私も聞いたことがない」
 きっぱりと答える。
「じゃ、あの種は何の種だったんですか?」
「知らん」
 カイの問いに、切り捨てるように言い放った。いつも、自信に満ちた態度。この自信がどこから来るのか、時々疑問に思う。
「どこで手に入れたんですか?」
「裏通りを歩いていたら、見るからに怪しげな店があったので、入ってみたこれまた怪しさ全開の店主から千クラウンで買わないかと言われた。即商談成立今に至る」
 あまりに出来過ぎた都市伝説のような話。他の人間なら嘘と思うのだが、フェルの場合は嘘と言い切れない。そういう雰囲気を持つのだ。
 カイは両手でそっとミドリを掴み上げた。
「何者なんだ? お前は」
「わたし、何なんだろう?」
 ミドリは首を傾げた。
「とりあえず、その子の絵を描いて来なさい。カイ君」
「なぜ?」
 訊き返すと、フェルは大仰に両腕を広げた。
「妖精の絵を描ける。こんな貴重な体験――芸術家として見逃すことはできない! 君もそう思うだろう? 思うよね?」
「あ……。はい」
 殺気めいた威圧感とともに迫るフェルに、カイはなすすべなく頷いた。

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