Index Top 硝子の森へ……

第20話 依頼の内容 


 しばらくして、部屋に村長が入ってきた。六十ほどのこざっぱりした老人。
 村長の向かい側に左からロア、カンゲツ、アスカの順に座っている。アルニはロアの肩に掴まっていた。あれから少し会話をして、カンゲツをリーダーとすることで意見が一致する。実力も風格も十分だろう。
「それで、何が起こってるんですか? あらかじめ説明しておきますと、今回のような事件の場合、思い違いということも考えられます」
 すらすらと慣れた口調で質問するカンゲツ。
 村長は用意してあった地図を広げた。村の南の方にいくつか×印が書かれている。×印は七個で、村から七キロほど南に行った森の中。
「最近、村の南の方で不審な影を見かけたという話がありまして。最初は見間違いかとも思ったのですが、その後山菜採りや猟師がその影を見かけてるんですよ。ここしばらく、南には行けなくて困っております。あの辺りは非常に良場なのですが……」
「動物じゃないのか?」
 ロアは口を挟んだ。動物を怪物などに間違えることは時々ある。
「いえ、この辺りにはそういう動物はいません。時々魔物も出るのですが、そういうものとも毛色が違います。ただの魔物ならこちらで何とかするのですが、正体の分からない相手はどうしようもありません」
 困ったように首を振る村長。
 魔物といっても狼より多少凶暴なくらい。不意打ちを食らえば危ないが、爆砕符などの携帯用魔術具を使えば簡単に撃退できるし、魔除けの護符もある。山に入るような人間ならば護身用の魔術も使えるだろう。村守と呼ばれる戦士もいる。
「村守士のテッカとサンソも姿を見たのですが、あれは魔物ではないと言っていました。自分に正体は分からないし、追いかける気にもなれなかった、と。だから、特殊戦闘技能免許所有者のあなた方にお願いするのです」
「新手の魔物ね。面白い。最近腕がなまってたから、久しぶりに暴れられるかな?」
 嬉しそうなアスカは置いておくとして。
 カンゲツは冷静に話を続けていた。地図の×が集まっている辺りを指で示し、
「この辺りに古い遺跡などがあるということはありませんか? 朽ち果てた遺跡の魔術機械が動いて、何かを召喚してしまうということが時々あります」
 アルニが複雑な表情でカンゲツを見つめている。
 アルニも遺跡の召喚装置で見知らぬ土地に放り出されてしまった。ロアと出会わなければ故郷にも帰れず行き倒れていただろう。
 村長は自信のない口調で答えた。
「そういうことはありません。ないと断言できるほどではありませんが」
「その他の異常はありませんか?」
「空気が、変わるんですよ――」
 カンゲツの問いに、村長が曖昧に呟く。
「数日に一度くらいの割合で、村の空気が変わるんです。気づく人はほとんどいないんですが……私は気づく人の一人ですね。南の空気が流れてくるのだと思います」
「了解しました」
 まとめるように頷くカンゲツ。
「ではさっそく聞き込みに行きたいと思います。まずは村守士のテッカ氏とサンソ氏ですね。案内して貰えないでしょうか?」
「はい」
 村長は椅子から立ち上がった。

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