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第19話 漆黒の剣士 |
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「翡翠眼っていう特殊な瞳で、強力な透視能力があるんだよ。魔法で姿消した妖精くらいなら普通に見えるし、術使えば石壁の数枚くらい越えて透視出来るしね」 宝石眼と呼ばれる、強い力を宿した瞳。その色によって名称と特性が違う。帝都では何度か見たが、こんな場所で見かけるとは思わなかった。宝石眼は片目に現れるが、ごく稀に両目とも宝石眼の者もいる。見たことがない。 驚くロアに満足しつつ、アスカはアルニを指差した。 「この子、あなたと契約してるの?」 「いや、街道で拾ったんだよ。契約はしてないし、する気もない」 その問いに、ロアは首を振って答える。 続けるようにアルニが口を動かした。 「わたし、放置された召喚装置の誤作動で勝手に召喚されちゃったんですよ。一人で硝子の森に帰ろうとしたんですけど、行き倒れになりかけて、ロアさんに助けて貰いました。だからロアさんと一緒に旅をしながら恩返しをしています」 羽を動かしロアの傍らまで移動してから、胸を張ってみせる。 「勝手にくっついて来てるってのが正しいけどな。食費増えるし」 眼鏡を動かし、ロアはさらりと告げた。肩を落としてふらふらと落ちていくアルニを右手で受け止め、肩に乗せる。そのうち立ち直るだろう。 「こっちからも質問だ。それ刀か?」 アスカの腰の剣を指差し、尋ねた。 細身で緩い反りを持つ剣。刃渡りは七十五センチほどで、鐔は小さい。特殊な鉄と鍛造法から作り出される、斬撃に特化された刃物。凄まじい切れ味を持つが、玄人好みの扱いにくい剣でもあり、使う者は多くない。ついでに、値も張る。 「へぇ、知ってるんだ。物知りだね」 鞘を撫でながら、アスカは笑った。目蓋を半分下ろしてから、声音も落とす。 「……使えるのか? って顔してるけど、安心して。あたし強いから」 「油断するな、と以前から言っているだろう?」 突然の声に視線を移す。 部屋の隅に、背の高い男が佇んでた。外見は二十歳ほどだが、やけに老成している。厳しい顔立ちに、黒い双眸、まっすぐな黒髪を腰まで伸ばしている。上着からズボン、靴まで。服装は漆黒で統一されている。 刃渡り百センチを超える刀を一振り背負っていた。 「あ、カンゲツ。遅かったね」 アスカが緊張感無く声を上げる。相棒と言うだけあり、慣れているのだろう。 「いつから……そこに?」 ロアは静かに問いかけた。単純明快にして難解な質問。 空間転移ではない。何らかの手段で部屋に入り、気配を消してロアたちの会話を聞いていた。雰囲気だけで分かる。並の一流ではない。ロアと同等かそれ以上。 「さっきドアを開けて入ってきた。若い者同士で話が弾んでるようだったから、部屋の隅で大人しくしていたよ」 余裕の表情で、カンゲツはからかうように答えた。 その姿を見つめ、アルニが驚いたように声を上げるr。 「お兄さん……」 「悪いが――」 カンゲツは一言でアルニを黙らせた。睨むでもなく、威圧するでもない。ただ見つめただけ。それで、アルニは何も言えなくなってしまった。 「これでも秘密にしてるんだ。口を滑らせないでくれ」 「はい」 苦笑混じりの忠告に、アルニは素直に頷く。 アスカは驚くでもなくその様子を見つめていた。 |