Index Top 第5話 X - Chenge

第5章 アクセサリを作ろう


「これ、きれいですね」
 カルミアは展示されたアクセサリを指差した。
 銀色のブレスレットで、イミテーションの宝石が組み込まれている。値段は七千円。手持ちで買えない金額ではないが、買う気はない。
 ショッピングモールの一角にある装飾品店。数百円から数千円ほどの小物が置かれている。カルミアが見つけて、一緒にやって来た。
「うん。確かにきれいだ。似合うだろうな」
 言いながら、慎一はその形状を記憶する。
 周囲には男女のカップルが何組かいて、お喋りしながら装飾品を眺めていた。自分たちを見ているわけではないが、なんとなく居心地の悪さを感じる。
「これも、可愛いです。どうですか、シンイチさん」
 カルミアが首飾りを指差した。笑顔でぱたぱたと手を振る。
 その後をついて行きながら、慎一は指輪を観察した。銀製の指輪で、流れる水を模した細かな模様が彫り込んである。
「これは、どうだろうな? 小さいし、構造が複雑だから、難しいな」
 慎一は眉根を寄せて、感想を述べた。
 カルミアはきょとんと瞬きする。
「コウゾウがフクザツって? どういうことです?」
「忘れてるのか――いや、もう慣れ切ったと言うべきか?」
 独りごちながら、慎一はズボンのポケットに手を入れた。取り出したものをカルミアの手に落とす。アパートから持ってきた物だ。
「これ、何ですか?」
 じっとソレを見つめる。
 長さ十八センチほどの銀色の杖。先端に紋章のような飾りと、四角い青水晶がついている。簡素な作りだ。カルミアがそれを知らないはずはない。
「いつも見てるだろ」
 慎一の言葉に頷いてから、カルミアは右手で杖を摘んだ。
「……わたしの杖、ですよね? こうして見ると小さいですね。いつもはわたしと同じくらいの大きさなのに、今は片手で摘んで動かせるんですよ」
 指で杖を動かしながら、カルミアは笑う。
「僕の言いたいことは分かった?」
「ここのアクセサリ買っても、わたしは付けられないです……」
 杖を両手で握り締めて、漫画のような涙を流していた。やはり身体は結奈である。カルミアはこんなことはしないが、結奈は時々冗談のような泣き方をしていた。
 慎一は短く吐息して、
「僕が作るよ。これくらいなら簡単だ」
「作るって……?」
 不思議がるカルミア。
 慎一はアクセサリの置いてある場所の隣を指差した。
「手作りアクセサリコーナーがある。そこの小道具を使って妖精サイズのアクセサリを作るよ。兄さんほどじゃないけど、僕も手先の器用さには自信がある」
「本当ですか?」
 期待するように笑うカルミアに、慎一は頷いた。
「それに今見てたのは全部形状も記憶してある」
「記憶出来るんですか? 凄いですね」
 ぱんと両手を叩いて、驚きを表現する。アクセサリの構造を一目見ただけで把握する。日暈の人間の集中力と記憶力を以てすれば難しいことではない。
 慎一は手作りアクセサリコーナーへと歩いて行きながら、
「忠実に再現は出来ないけど、そこは我慢してくれ」
「はい」
 笑顔で頷くカルミア。
 一緒に歩きながら、手作りアクセサリコーナーへと移動する。
 ビーズなどの小物からリボン、レザー、銀の装飾品、色ガラス、天然石、小さな木などが色々と飾ってあった。値段は手頃である。
「とはいっても――」
 置いてある品物を見ながら、慎一は頭をかいた。
「材料が足りない」
 妖精の身体にあったものを作るとなると、人間用の手作りアクセサリとは勝手が違う。ましてや精巧に作るのは無理だ。アパートにある自分用の工具を使えば加工は出来るが、加工する材料がない。
「精巧なものは無理だけど、首飾りやブレスレットは作れる。指輪はさすがに無理だ」
「じゃあ、銀のブレスレットお願いします」
 カルミアは左手を持ち上げた。それから、右手に持っていた杖を差し出してくる。
「あと、これに赤いリボン付けたいです」
「分かった」
 杖を受け取り、慎一は頷いた。リボンは問題ない。一番細いリボンで飾って固定すればいいだけだ。ブレスレットは指輪で代用出来るだろう。
 しかし、気づいて呻く。
「手首の大きさはどれくらいだ?」
「はい」
 当然とばかりに、カルミアは左腕を差し出してきた。
 慎一は杖を指で回しながら、告げる。
「だから、結奈の手首計っても仕方ないんだって」
「あう」
 肩を落とすカルミア。
 慎一はゆったりと周囲を見回し、
「結奈のヤツがいれば分かるんだけどな」
「そういえば、ユイナさんどこ行っちゃったんでしょうか?」
 自分の身体の行方を案じ、カルミアは首を傾げる。魔法も使えず、飛べもしない非力な妖精の身体。しかも、身体を動かしているのは、好奇心の塊である結奈。どこかでトラブルに巻き込まれているかもしれない。
「心配ですね……」
 眉を傾げて、カルミアは胸元で両手を握る。五感はここにあっても、精神も肉体も向こうにあるのだ。仮に結奈が怪我をすれば、カルミアの怪我となる。
 慎一は横を向き、左手で口元を押さえた。
「大丈夫だ。あいつの言動はふざけてるけど、とにかく頭はキレる。打算を間違えることもないし、危険に近づくこともない……沼護の名は飾りじゃない」
「そ、うですか?」
 その口調に、カルミアがたじろぐ。
 沼護一族は蟲を用いた罠を得意とする。その部分では非常に高い知能、策略を持つ。自分から危険に近づくことはないし、危険を察知したら即座に逃げる。その巻き添えを食らうのは大昔から日暈の人間だったりするのだが。
 ふっと息を吐いて、慎一はかぶりを振った。
「妖精の大きさは大体人間の1/8だから。およそ一センチ弱……といっても、そんな小さな指輪は売ってないからな」
「あの、無理に買わなくてもいいですよ」
 カルミアの言葉は置いておいて。
 慎一は手作りコーナーのさらに隅に目を向けた。
「なら、自分で作る」
 上級者向けコーナーと書かれている。
 彫金。文字通り、金属加工だ。硬い金属を加工するため、手先の器用さと相応の腕力と技術力、さらにある程度の道具を要求させる。初心者向けではない。
「シンイチさん、出来るんですか?」
「刀打ったこともあるし、金属加工の技術には自信がある」
 不安がるカルミアに、慎一は右手を見せて断言した。


「バレてるわね」
 飛影の背中で結奈はぼやいた。
 薄い紫色の長いもみあげを右手で弄ってみる。まるで、絹糸のようにさらさらの髪の毛。人間とは比べものにならないほど、きれいな髪質。
「何、姉ちゃん。バレてるって」
 ショッピングモール近くのビル。その屋上に立ったアンテナに留まり、結奈たちは二人を観察している。装飾点から出てきて、書店へと向かっていた。
 結奈は左手を持ち上げた。
「慎一のことよ。さっき、目が合ったわ」

Back Top Next