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第8節 サイバネティック・オーガニズム


 レイは再び走りながら、答えた。
「全身に、金属反応が見られた。単純に考えれば、戦闘用アンドロイドと考えるのが妥当だろうが……あの動きは機械のものじゃない」
 屋上の端から飛び上がり、向かいのビルの屋上へと着地する。衝撃を膝を使って受け流し、駆け出す。生身の人間を抱えているので、無理な動きはできない。
「あいつらは、人間だ――」
「それって」
 クキィが言いかける。レイは断言した。
「サイボーグだ」
 機械と人間の結合体。昔は結構いたそうだが、最近ではあまり見られない。人間を改造するよりも、アンドロイドを造った方が手っ取り早く、安上がりだからだ。
 視線を上げて、独り言のようにレイは続ける。
「リミッターを解除した俺の速度についてこられるとなると、性能は極めていいな。神経系統にも改造がしてあるか。俺の拳に打たれて平然としているということは、強度も生半可なものじゃない。銃器は通じないだろう」
 言い終わり、視線を戻すが……。
 その先に、飛び移るべきビルはない。
「二人とも、衝撃に備えろ!」
 叫んで、レイは跳んだ。真下に、広い公園が見える。地面までの距離は、約百メートル。その距離を、重力に従い落下していった。浮遊感が、全身を包む。
「うあああああああ!」
「―――!」
 悲鳴を上げるシリックと、声を呑み込むクキィ。
 レイは公園の芝生の上に着地した。自分の耐久力だけを考えて着地しては、二人の命はない。衝撃を、全身を使って受け流す。計算では、ぎりぎり耐えられるはずだ。
 伏せるほどに屈み込んだ姿勢から、立ち上がる。
「無事か――?」
「はい……」
「何とか……」
 無事らしい。そのことに安堵しながら、レイは走り出した。
 背後に、敵が着地する。数は十。誰も、脱落していない。
(どうやって、こいつらを撒くか! 二人をかばいながらじゃ戦えない)
 考えているうちに、新しい人影が見える。
 公園の入り口に、五人の男女が立っていた。服装からするに、民間人だろう。しかし、その手には、格好とは不釣合いな、重火器が握られている。狙いは、自分の背後。
「レジスタンス!」
 レイは叫んだ。
 その声に応えるかのように放たれたロケット弾や銃弾が、追ってくるサイボーグたちを直撃した。傷つけることはできないが、足止めにはなる。
「こいつらは……本物か?」
 咳き込みながら、シリックが呟く。
「本物だ」
 レイは五人の前で足を止め、抱えていた二人を下ろした。
「ようやく見つけましたよ。あなたが、レイ・サンドオーカー氏ですね」
「ああ、そうだ。この二人を頼む!」
 長身の男に答えて、背負っていたテンペストを下ろす。レジスタンス五人と、シリック、クキィは正直足手まといとなるが、ここで戦うしかない。
 チェーンブレードが起動し、刃を包んでいた布が千切れ飛んだ。
 それを見て、敵が動きを止める。
「奴らは、デウス社最強のサイボーグ部隊・コリシュマルド。情報によると、全員が剣術の達人で、たった一人だけで、戦闘用ロボット数体を破壊する力を持っているそうです。気をつけてください」
「ああ――。頼むから、余計なことはしないでくれよ」
 レイは駆け出した。相手は、いつも現れる自称賞金稼ぎのような素人ではない。自分を殺す――破壊する気なら、殺される覚悟はできているだろう。
 加減はいらない。レイは限界まで力を引き出した。初歩で時速二百キロまで加速する。アスファルトの地面が砕け、砂埃が舞った。
 ここからは、人外の領域の戦いとなる。
「十三剣技――」
 サイボーグたちが動いた。その機動力は自分に匹敵するだろう。一見ばらばらなようで、見事に統率が取れていた。不用意に仕掛ければ、一斉攻撃にさらされる。
 この場合の定石は、各個撃破。
「四弦月!」
 右斬上げが、一番手前にいるサイボーグを斜めに両断した。
 だが、先頭の一人が倒されることは、敵もある程度覚悟していたのだろう。
 それを証明するように、前と左右、それと空中から細剣が繰り出される。変則的な連携攻撃。どれかひとつを防いでも、残り三つが身体を捕らえる。
 百分の一秒の迷いも許されない。レイはテンペストを握る手に力を込めた。

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13/3/17