Index Top 第3章 突入 |
|
第7節 迎撃者 |
|
「ミストが、動いたな……」 ポータブルパソコンを操作しながら、レイは呟いた。 さきほどから、デウス社の中枢コンピューターにアクセスしていたのだが、それが急に途絶えたのだ。回線を切られたわけではない。画面が急に乱れ、暗転したのである。ウイルスを食らったらしい。 「これから、どうやってレジスタンスに合流するんだ?」 ノートゥングを構えて周囲を警戒しながら、シリックが訊いてきた。キニーを気絶させてから、一時間ほど歩いているが、人には出会わない。 戒厳令が引かれていて、一般人は外出を禁止されているらしい。 警備官にも会っていない。ポータブルパソコンのデータから、警備官がどこにいるかが分かるのだ。レイたちはそれを避けて歩いている。 レイはシリックを見やった。 「このパソコンから出る電波を特殊な波長に変えた。レジスタンスがこれに気づいてくればいんだが……」 「それって……」 クキィが左手を口元に当てる。 「敵にも居場所を知らせることになりませんか?」 「なる」 レイは答えた。居場所の分からない相手に自分の居場所を知らせるということは、敵にも居場所を教えることにもなりえる。 「それって、自爆行為だろ!」 「他に方法が思いつかなかった」 シリックの文句に、レイは両腕を広げた。 「だが、俺たちがここにいることはとっくに知られている。監視カメラもあるしな。それに、目的はレジスタンスだってことも相手に知られている……」 言いながら、何となく嫌な予感を覚えて、周囲を見やる。しかし、何も変わったところはない。探索機能を使っても、異変は感じられなかった。 念のため、言っておく。 「シリック、クキィ。また走ることを覚悟しておいてくれ」 「走るって……」 嫌そうに、シリックが呻く。 「あんたに抱えられて、とんでもない速度で走ったり跳んだりするんだろ……。はっきり言って、酔うんだけど。あれ」 「頑張って、我慢しよう」 元気づけるように、クキィが言った。 と、その時。 「来た!」 囁くように叫び、レイは振り返った。探索機能は何も捉えていない。しかし、人間としての勘は異変を捉えている。全身に寒気が走った。 二百メートルほど先。そこに、一人の人間が立っている。 身長、体格ともに標準。黒い戦闘服に身を包み、腰に細身の直剣を下げていた。性別は、男だろう。銃器は持っていない。だが、全神経が危険を伝えている。 男が走った。しかし、その速度は生半可なものではない。瞬時にして、時速百キロ近くまで加速する。無論、生身の人間にできることではない。 「何だ!」 シリックは咄嗟にノートゥングの引き金を引いた。 男が腰の細剣を抜き放つ。自分めがけて飛んでくる弾丸を、残らず剣で弾き飛ばした。これも、生身の人間にできることではない。 「そこで、待ってろ!」 言った時には、男との間合いが消失している。 恐ろしい速度で突き出される剣。レイはそれを左腕で横に逸らした。が、触れただけで皮膚が斬れ、凄まじい電圧が腕を貫く。これは、ただの剣ではない。 (チェーンブレードに、高電圧衝撃か……) 男は細剣を逸らされたことに構わず、貫き手にした左手を突き出してくる。その指先はナイフのようになっていた。レイは右肘で相手の左手を防ぎ、右足で踏み込んできた足を払う。しかし、相手を倒すには至らない。レイは構わずに、全体重を乗せた右拳を敵の身体の中心に打ち込む。 コンマ三秒の攻防で、男は五十メートルも突き飛ばされた。 が、男は地面に着地し、何事もなかったかのように向かってくる。 レイは身を翻して、二人の元に走った。 「逃げるぞ!」 「あいつ何なんだ!」 二人を脇に抱え、向かってくる男とは反対方向に走ろうとするが。 「挟まれたか!」 その先には、戦闘服に身を包んだ男が九人、気配もなく立っている。その手には、チェーンブレードの仕込まれた細剣を構えていた。いつ、そこに現れたのかは分からない。詮索している暇もない。 レイは跳んだ。ビルの壁面を三角蹴りを繰り返して登っていき、その屋上に降り立つ。敵が追ってくるのが、気配で知れた。 「あいつら、何なんだ!」 シリックが叫ぶ。 |
13/3/10 |