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第7節 迎撃者


「ミストが、動いたな……」
 ポータブルパソコンを操作しながら、レイは呟いた。
 さきほどから、デウス社の中枢コンピューターにアクセスしていたのだが、それが急に途絶えたのだ。回線を切られたわけではない。画面が急に乱れ、暗転したのである。ウイルスを食らったらしい。
「これから、どうやってレジスタンスに合流するんだ?」
 ノートゥングを構えて周囲を警戒しながら、シリックが訊いてきた。キニーを気絶させてから、一時間ほど歩いているが、人には出会わない。
 戒厳令が引かれていて、一般人は外出を禁止されているらしい。
 警備官にも会っていない。ポータブルパソコンのデータから、警備官がどこにいるかが分かるのだ。レイたちはそれを避けて歩いている。
 レイはシリックを見やった。
「このパソコンから出る電波を特殊な波長に変えた。レジスタンスがこれに気づいてくればいんだが……」
「それって……」
 クキィが左手を口元に当てる。
「敵にも居場所を知らせることになりませんか?」
「なる」
 レイは答えた。居場所の分からない相手に自分の居場所を知らせるということは、敵にも居場所を教えることにもなりえる。
「それって、自爆行為だろ!」
「他に方法が思いつかなかった」
 シリックの文句に、レイは両腕を広げた。
「だが、俺たちがここにいることはとっくに知られている。監視カメラもあるしな。それに、目的はレジスタンスだってことも相手に知られている……」
 言いながら、何となく嫌な予感を覚えて、周囲を見やる。しかし、何も変わったところはない。探索機能を使っても、異変は感じられなかった。
 念のため、言っておく。
「シリック、クキィ。また走ることを覚悟しておいてくれ」
「走るって……」
 嫌そうに、シリックが呻く。
「あんたに抱えられて、とんでもない速度で走ったり跳んだりするんだろ……。はっきり言って、酔うんだけど。あれ」
「頑張って、我慢しよう」
 元気づけるように、クキィが言った。
 と、その時。
「来た!」
 囁くように叫び、レイは振り返った。探索機能は何も捉えていない。しかし、人間としての勘は異変を捉えている。全身に寒気が走った。
 二百メートルほど先。そこに、一人の人間が立っている。
 身長、体格ともに標準。黒い戦闘服に身を包み、腰に細身の直剣を下げていた。性別は、男だろう。銃器は持っていない。だが、全神経が危険を伝えている。
 男が走った。しかし、その速度は生半可なものではない。瞬時にして、時速百キロ近くまで加速する。無論、生身の人間にできることではない。
「何だ!」
 シリックは咄嗟にノートゥングの引き金を引いた。
 男が腰の細剣を抜き放つ。自分めがけて飛んでくる弾丸を、残らず剣で弾き飛ばした。これも、生身の人間にできることではない。
「そこで、待ってろ!」
 言った時には、男との間合いが消失している。
 恐ろしい速度で突き出される剣。レイはそれを左腕で横に逸らした。が、触れただけで皮膚が斬れ、凄まじい電圧が腕を貫く。これは、ただの剣ではない。
(チェーンブレードに、高電圧衝撃か……)
 男は細剣を逸らされたことに構わず、貫き手にした左手を突き出してくる。その指先はナイフのようになっていた。レイは右肘で相手の左手を防ぎ、右足で踏み込んできた足を払う。しかし、相手を倒すには至らない。レイは構わずに、全体重を乗せた右拳を敵の身体の中心に打ち込む。
 コンマ三秒の攻防で、男は五十メートルも突き飛ばされた。
 が、男は地面に着地し、何事もなかったかのように向かってくる。
 レイは身を翻して、二人の元に走った。
「逃げるぞ!」
「あいつ何なんだ!」
 二人を脇に抱え、向かってくる男とは反対方向に走ろうとするが。
「挟まれたか!」
 その先には、戦闘服に身を包んだ男が九人、気配もなく立っている。その手には、チェーンブレードの仕込まれた細剣を構えていた。いつ、そこに現れたのかは分からない。詮索している暇もない。
 レイは跳んだ。ビルの壁面を三角蹴りを繰り返して登っていき、その屋上に降り立つ。敵が追ってくるのが、気配で知れた。
「あいつら、何なんだ!」
 シリックが叫ぶ。

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13/3/10