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第9節 到着


「八旋廻!」
 回転斬りが、細剣二本を弾く。残りは右と上。間を置かず、レイは跳んだ。飛びかかるように突き出された細剣を弾き、身体をひねってサイボーグを横に蹴り飛ばす。
 視線を下ろすと、落下地点で四人のサイボーグが細剣を構えていた。レイは迎え撃つようにテンペストを構えて……
「九天――」
 爆発がその四人を吹き飛ばす。レジスタンスが、ロケット弾を放ったらしい。が、命中したのは偶然だろう。この攻防の速度は、人間の反射神経では捉えられえられない。十分の一秒のずれで、自分に命中していたかもしれない。
 レイは焦げた地面に着地した。攻撃してくる敵は左右と前、三人。
「七飛翔!」
 真正面のサイボーグの心臓部をテンペストが貫く。
 それを見るより早く、レイは右に向き直っていた。サイボーグは細剣を引き戻す。相手が空手とはいっても、油断はしていない。隠し武器を警戒しているのだろう。
 レイは飛び出すとともに細剣の刃を両手で挟んだ。白刃取り。これは相手も予測していない。電撃と痛みが腕を駆け抜けるが、動ける。振り上げた右足が、相手の側頭を打ち抜いた。身体は機械でも、脳は人間である。これで、脳震盪を起こしたはずだ。敵は倒れ、動かなくなる。
 考える前に、身体が動いていた。奪い取った細剣を握り直し、身体の前後を入れ替える。突き出される細剣に合わせ、
「十三剣技・十連牙!」
 斬上げが、敵の細剣を斬り飛ばした。続く二段斬りが、金属の身体を斬り捨てる。細剣を左手に持ったまま、レイは敵に刺さっていたテンペストを抜き取った。
 レジスタンスの五人の方へと向かうサイボーグが三人。機関砲の弾丸を浴びながらも、止まらない。距離が近くては、ロケット砲は使えない。
「そう来たか!」
 レイはテンペストと細剣を投げ放つ。二本の剣は、サイボーグ二体の心臓部を貫いた。二人は倒せたが、残りの一人は止まらない。
「くっ!」
 レイは対峙している敵に背を向け、懐に手を入れようとするが、その右腕が根元から斬り落される。肩越しに敵を見やるも、その相手は構わず、走った。
「剣士たるもの、仲間を見捨てることは決して許されない――!」
 サイボーグが、細剣を突き出す。それを、クキィが間一髪コルブランドの光刃で受け止めた。しかし、昇華点が二十万度に及ぶオリハルコンを蒸発させることはできない。高電圧とエネルギーフィールドが接触し、細かい放電を起こす。
 次いで、シリックが動いていた。ノートゥングの銃口をサイボーグに向け、引き金を引く。それを察して、クキィは横に逃げていた。
 サイボーグは後退し、細剣で銃弾を弾き飛ばす。
 その頭を、レイは背後から真横に蹴り飛ばした。背後に注意が回らなかったらしい。サイボーグは空中で一回転して地面に倒れ、動かなくなる。
 レイは自分の敵に向き直るが、作った隙が大きすぎた。攻撃を防げない。
 突き出された二本の細剣が首と胸を貫く。その刃は、正確に神経回路を切断していた。神経回路に高圧電流が流れ込み、情報伝達が阻害される。動けない。
(まずい!)
 機能回復まで、三・六四秒。
 サイボーグの一人が、細剣の切先を頭に向けた。狙いは、頭の中にある制御支援コンピューターだろう。それに重大な損傷を受ければ、自分は機能が停止する。
 そうなれば、レジスタンス五人と、シリック、クキィは殺されるだろう。
 この窮地を打開する方法は、思いつかない。
 その時――
「ウガ……ギ!」
 レイは悲鳴を上げた。
 無茶苦茶なノイズが、頭の中で爆発する。壊れたテレビのように視界が歪み、敵の姿が捉えられなくなった。頭の中に駆け抜ける雑音に、声も出ない。
(これは、ジャマー……か)
 妨害電磁波で、機械の各種精密機器に干渉し、その機能を混乱、停止させる攻撃。自分のような耐電磁波防御がなされた機械に、これほどの障害を起こさせるとなると、並大抵の機械はひとたまりもない。
 電磁波が止まる。
 震える手で身体に刺さった細剣を抜きながら、レイは視線を上げた。案の定、残ったサイボーグは全員倒れ伏している。電磁波が引き起こすノイズに、脳が耐えられなかったのだろう。機能停止しただけで、死んではいないだろうが。
「こんな乱暴なことをするのは、一人しかいない」
 呟きながら、レイは視線を移す。
 公園の入り口に、大型の貨物トレーラーが停まっていた。運転席の上には、アンテナがついている。それが、妨害電磁波を放ったのだろう。
 トレーラーの運転席から、見覚えのある女が顔を出していた。
「ぎりぎり間に合ったわね! レイ」
「そうだな。ミスト……」
 頭を振りながら、レイは呻いた。



 メインプログラム・異常なし     制御プログラム・異常なし
 人格プログラム・異常なし      記憶学習プログラム・異常なし
 戦闘プログラム・異常なし      自己修復プログラム・異常なし
 神経回路・異常なし         金属系人工筋肉・異常なし
 骨格各部・異常なし         関節各部・異常なし
 感覚器官・異常なし         動力炉・異常なし
 エネルギー伝達機構・異常なし    空間圧縮機構・異常なし
 質量中和機構・異常なし       攻撃機構・異常なし
 マイクロマシン機構・異常なし    マイクロマシン統合機構・異常なし
 付属CPU・異常なし        付属メモリ・異常なし
 コアブレイン・異常なし
 エネルギー充填完了
「RUN!」

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13/3/24