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第2節 告げる事実


「…………」
 ジャックが右手をかざした。虚空から現れた無数の金属片が収束し、大型の武器を作り上げる。それは、大口径の機関砲だった。
「構造さえ知っていれば、私はどんなものでも作り出すことができる」
「神速の風!」
 撃ち出される弾丸。それは鉄骨を貫き、地面をえぐり、寒月に襲いかかる。寒月は紅を動かし、飛び来る弾丸全てを弾き飛ばした。叩き落とされた弾丸が、地面に散らばる。
 銃撃が止まった。
 ジャックは機関砲を消す。続いて現れてのは、子供の背丈ほどもある漆黒の大剣だった。相手の生命力を削り取り、自分のものとする魔剣・ドレイン。
「寒月……! 答えて……」
 三度目の声に、寒月はとうとう声を上げていた。
「ああ! 無明を殺したのは、俺だ!」
 明日香が後退るのが気配で知れる。
「何で……」
 ようやく聞き取れるほどのか細い声。
「何で……。あんたは、お父さんを殺したの……?」
「執行者は……」
 満足げに笑うジャックを睨みながら、寒月は軋むような声を吐き出した。
「俺たち執行者は、裁定者の定めた掟には逆らえない。裁定者の命令に逆らえない。だから、俺は無明を殺すしかなかった」
「お父さんは、あんたの親友だったんでしょ――!」
 明日香の呟きが、胸に突き刺さる。
「親友でも、だ!」
 振り返らぬまま、寒月は叫ぶように言った。叫ぶと言うよりも泣き声に近い。
「俺たちは目的を持って作られた生き物。命令されれば、従うしかないんだ! 命令に逆らうことができない! これが執行者の性だ……」
 衝撃が背中を斜めに突き抜けた。斬られたのだ、と悟る。着ているコートのおかげで身体に傷はできていないが、痛みは身体の芯まで届いていた。
 何も言えない。何もできない。
 声もなく、明日香がどこかへと走っていく。
「……くっ……」
 寒月はそれを追うことはできなかった。ジャックが目の前にいるからではない。ジャックがいなくとも、追いかけることはできなかった。
 自分の無力さを痛感する。
「哀れだな、カンゲツ」
「貴様……」
 怨嗟の呻きを発しながら、寒月は紅を握り直した。構えはいらない。思考もいらない。赤い刃をジャックの急所へと差し込む、いくつもの軌跡が描かれる。
 ジャックが動いた。ドレインを構え間合いを縮めてくる。
 寒月は目を見開いた。ジャックがどのように剣を繰り出してくるか、手に取るように分かる。上段から左斜めへと走り、そこから跳ね上げる剣の軌跡。
 それを紙一重で躱し、寒月は紅を振った。
 あらゆるものを斬り裂く刃が、ジャックの腹を半ばから斬る。
 ジャックは一度逃げるように、後ろに跳び退いた。
「俺は……貴様を、殺す」
 全身から殺気を放ちながら、寒月は告げる。
 が、ジャックは余裕を崩さない。
「できないよ」
 呟き、左手の指を下へ振る。
「……がっ!」
 同時、寒月の左腕が地面に激突した。凄まじい重量が、左腕を地面に押し付けている。見ると、左前腕に銀色の輪がかけられていた。腕にかかる重さは、半端ではない。
「グラビトン――。超重量で相手の動きを封じる腕輪さ。さっき接近した時につけさせてもらったよ。この傷の代償としては妥当かな」
 腹の創傷を撫でながら、ジャックが楽しげに解説してくる。
「では、私はアスカを捕らえにいくよ。君はそこで休んでいてくれ」
「させる、かああああああああ!」
 叫びながら、寒月は左腕にありったけの力を込めた。しかし、腕は数センチしか上がらない。ジャックは寒月に背を向け、立ち去ろうとしている。
「この……」
 寒月は動く右手で、懐から烈風を抜いた。
「貫通弾!」
 撃ち出された何十発もの弾丸が、ジャックの背中に突き刺さる。油断していたのだろう。ジャックは弾丸を避けることはできなかった。
 身体中に開いた穴から、血を吹き出し倒れる。烈風、疾風は銃としての威力は並だが、ジャッジを用いれば執行者の身体さえ貫けるのだ。
 しかし、ジャックは起き上がり振り替えると、
「全く……君はしつこい……」
 苛立ちのこもった声とともに、黒い筒のようなものを作り出した。身体は血まみれだが気にしている様子はない。黒い筒を肩に担ぎ、寒月の方へとその穴を向ける。
「バズーカ砲!」
 ジャックが引き金を引いた。
 ロケット弾が撃ち出される。それはまっすぐに自分を狙っていた。逃げたいが、腕輪をかけられた左腕が動かない。逃げられない。
「鋼鉄の護り!」
 ジャッジで身体を硬化させた直後、ロケット弾が寒月に命中した。爆発が地面を揺らし、炎が鉄骨を舐める。それだけではない。機関砲の掃射によって穴だらけになった鉄骨が衝撃に耐えられず、へし折れた。
「………!」
 支えを失った鉄骨の建物が崩れ落ちてくる。これは、どうにもならない。
「グッド・ラック……カンゲツ」
 ジャックの呟きを聞きながら。
 寒月は落下する鉄骨に押し潰された。

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