Index Top つくもつき from 扶桑

第1章 言ってみて扶桑、やってみて山城


 前回「for 秋雲」のあらすじ!

 男の子になった秋雲くんは、ふたなり夕雲さんに襲われました。
「これは夢オチ? でもイケる!」
 冬の祭典のネタができました。

「夕雲、秋雲はどうしてる?」
「ネタが思いついたみたいですね。今は猛烈にネーム書き殴ってます。これは線画書き始めたあたりで油断して、締め切り直前に修羅場になるパターンです」
「そうかー。うちの基地って、変態さん多いのかな?」
「ふふ。提督に似たんですよ」
「そうかー……」

 ぺらり、と。
 ページをめくり、書かれた内容に眼を通していく。
 試製41cm三連装砲取扱説明書と記された冊子だった。
「癖の強い装備だ……まったく」
 資料室の机に向かい、ツクモはぼやく。新たに配備された戦艦主砲。小規模基地の常として、整備をするのは提督の仕事である。手伝いの艦娘はいるが、あくまで手伝いでしかない。本職の明石がいればいいのだが、あいにく中萩基地には明石はいなかった。噂によると、明石は艦娘の勘で大抵の装備を見ただけで必要な事が理解できるらしい。
「全く羨ましい限りだ」
 苦笑い混じりに呟き、ツクモは設計図を眺める。
 人間の大きさでも撃てるように作られた艦娘の装備。単純にサイズ縮小された兵器ではない。妖精によって作られる、英霊の力。奇跡の破片。内部にブラックボックス構造が多く、艦娘でないとまともに扱えない。
 人間では撃つことも難しい。
 ツクモは背伸びをして、椅子の背に体重を預けた。
「あー、身体ちょっと貸してくれないかなー、扶桑」
「いいですよ」
「!」
 突然返ってきた返事に慌てて視線を転じると、数冊の本を持った扶桑がいた。今日は仕事は休みのはずだが、調べ物だろうか。
「いつの間に……?」
「ついさきほど」
 ツクモの問いにそんな返事が返ってくる。説明書や資料を読む事に集中しすぎて、資料室に入ってきた扶桑に気がつかなかったようだ。
 扶桑は楽しそうに笑い、自分の胸に手を添える。
「わたしの身体ですね? いいですよ、提督。夜までに返して頂ければ。それと、多少ははっちゃけた事をしても構いませんよ。ふふ」
「あ。はい」
 頷くツクモ。
 扶桑は一度横を向いた。窓の外の青空を眺めてから、改めてツクモに向き直る。
「それと、もし提督がよかったら、山城の相手をしてあげてもらえますか? あの子も少し溜まっているようなので」
「善処します」
 ツクモは答えた。


 南の空にやや傾きかけた太陽が見える。雲ひとつ無い快晴の空だが、空気はほんのりと冷たい。秋もかなり深まってきている。もうしばらくすれば冬が来るだろう。
「うーむ」
 ツクモは書類ケースを小脇に抱え、工廠へと向かっていた。
 腰まで伸びた長い黒髪、大きな乳房、白い上着と赤いスカート。扶桑の身体で。
「奇しくも願いは叶ったわけだから、ここは素直に喜ぶべきだろう。そして、扶桑の身体を借りられたながら、やるべき事はひとつだ」
「姉さまー」
 聞こえてきた声に目をやると、山城がこちらに歩いてくる。
 ツクモは足を止め、口を開いた。
「あら、山城」
 扶桑を真似て。扶桑のようにと意識して動けば、身体はその通りに動く。真似ではあるが、傍から見れば普段の扶桑にしか見えないだおう。
 すぐ近くまで来た山城が訊いてくる。
「どこに行かれるんです?」
「ちょっと工廠に行くところよ。提督に用事を頼まれたの」
「むぅ。せっかくのお休みの日なのに、姉さまに用事を押しつけるなんて。何を考えてるんですか、提督は……。用事くらい自分で片付ければいいのに。まったく……」
 口をとがらせ文句を言う山城。扶桑と過ごすはずの休みを、ツクモの用事で半分潰されたようなものである。不満に思うのは無理もない。
「色々あるのよ」
 ツクモはそう告げてから、訊いてみる。
「山城も一緒に来るかしら?」
「はい。お供します」
 背筋を伸ばし、山城が答えた。
 楽しげな山城とともに、ツクモ工廠へ向かって歩いて行く。本部棟から艦娘用の港へと。港に併設された入渠ドッグと工廠。この時間、このあたりに艦娘の姿は無い。
 ツクモは口を開いた。
「そういえば、工廠の休憩室の冷蔵庫に羊羹があるみたい。提督に食べていいと言われているわ。二人で一緒に食べましょう」
「はい。よろこんで」
 山城が笑顔で頷く。
 そして。
「…………」
「……」
 およそ三秒の沈黙。
 山城が少し眉を下ろした。
「姉さま」
「何かしら?」
 ツクモは訊き返す。
 一度頷いてから、山城はおもむろに口を開いた。
「ぬるぽ」
「ガッ!」
 と。
 口にしてから。
 ツクモはそのまま視線を逸らした。
「提督じゃないですかあああああ!」
 叫び声とともに山城が飛びかかってくる。両手でツクモの襟を掴み、詰め寄ってきた。その勢いになすすべなく、後退していくツクモ。
「また性懲りも無く姉さまに乗り移って、何やってるんですかあああ! 身体ですね! 身体が目的なんですね! 分かります、羨ましい!」
「どうどう、落ち着け」
 宥めるようにツクモは両手を動かす。
 威嚇するように歯を剥きながらも、山城は案外素直に手を引いた。
 ツクモは吐息し、自分の手を見る。細く滑らかな女の手。
「やっぱ、わかるのか」
「ええ。なんとなく違和感ありましたから……」
 腕組みをして、山城が言い切る。
「なるほど」
 意識を移した相手の動きをある程度なぞる事はできても、思考しているのは別の人間なのだ。おのずと動きや発言にズレが出てしまうのだろう。
 目蓋を半分下ろし、山城が見つめてくる。赤い瞳に、疑いの光を灯して。
「で、どうやって姉さまの身体奪ったんですか? 睡眠薬でも飲ませたんですか?」
「人聞きの悪い事を言うんじゃない。扶桑が許可してくれたんだよ。俺のこの力、艦娘に意識を移すのは、相手に受け入れる意思がないとできないからな」
 艦娘を構成する妖精に干渉する力。色々と多彩な事ができるが、相手がそれを受け入れる事が前提条件なのだ。嫌がれば、それだけで弾かれてしまう。それをさらに押し込む方法はあったりするが。
「受け入れるって、そういう原理なんですか……?」
 驚いたように目を丸くする山城。
 ツクモは両腕を広げ、説明する。
「デリケートでセンシティブな仕組みだから、嫌がったらそれだけで弾かれる。お前も一回俺を受け入れたから、なんとなく分かるんじゃないか?」
 初めてツクモが扶桑になった後、色々あって山城はツクモを受けている。小さな神である艦娘ならば、そのあたりの精神や魂の動きは、人間以上に理解できるだろう。
「そうですか、そうなんですか……」
 緩く腕を組み、山城は何度か頷いた。
「わかりました」
 そして、山城はツクモに目を向ける。
 わしっ。
「おぅ!?」
 いきなり両手でツクモの胸を鷲掴みにした。
 もみもみもみもみもみ。
 ツクモが硬直している間に、ツクモの――いや扶桑の胸を思い切り揉みまくった。顔を赤くしながらも、無心に手を動かしている。
 それから山城はツクモの身体に両腕を回し、胸元に己の顔を埋めた。
「すーはーすーはーすーはー」
 何度も深呼吸をしてから、顔を放す。
 その顔は清々しく満足げだった。キラキラを纏うほどに。
「………」
 どう反応すればいいのか分からず、ツクモはただ山城を見るしかできない。
 最後に山城はスカートのポケットから小さなデジタルカメラを取り出した。私物らしい。左手でツクモのスカートを摘まみ、思い切りめくり上げる。
 パシャパシャパシャパシャ。
 白いショーツと艶めかしい太股を写真に収めてから、手を放した。
 めくり上げられたスカートが落ちる。
 山城はカメラをポケットにしまってから、右手を持ち上げ力強く拳を握り絞めた。清々しいまでに満足げな顔で。
「よし」
「よし、じゃない」
「うみょー!?」
 ツクモの右手が、山城の口を左右から摘まむ。タコのような口になりながらも、山城はツクモの腕を掴んで引きはがそうと奮闘していた。
 ツクモが手を放すと、口元を押さえながら少し距離を取る。
「それで、何で姉さまになってるんです?」
 ツクモは工廠の方に手を向けて、
「新しく配備された主砲撃ってみたかったんだよ。設計図とマニュアルだけじゃ分からない部分もあるし、実際に自分で使ってみたいと思ってな。扶桑に訊いたら、許可が出た。というわけで、俺は扶桑になってる」
「主砲ですか?」
 訊いてくる山城に、ツクモは答えた。
「ああ。試製41cm三連装砲☆8が二基」
「マヂでっ!?」
 目を見開き、口を菱形にして、山城が叫ぶ。その反応は当然だろう。
 両腕を広げ、わなわなと震えながら、
「そ、そんなレアな装備……! しかも改修八段階目……さらにふたつも? そんな、ありえない! あの節約大好き――というか、はっきり言ってドケチな防衛省が! 提督、一体何したんですか!? あ、夢ですね。これは夢オチなんですね!」
 と、自分の頬を引っ張っている。
 ツクモは工廠に向かって歩き出した。山城も一緒に歩き出した事を確認し、説明する。それほど奇抜な事があったわけではない。
「鎮守府や大型基地の仕事を地方基地に分散するって話は、前々からあったからな。最近準備が整って、徐々に実行されているみたいだ。今回の配備はその編成の一環らしい」
 戦力と仕事の一局集中は効率的であるが、色々と歪みを生む。それを緩やかに分散さ、せようという計画が、現在進行中だった。
「ふむ」
 山城は頷き、ツクモを見た。
「真面目な理由でちょっと肩すかしな気分なんで、キスしてもいいですか?」
 真顔でそんな事を言ってくる。
 ツクモは。
 山城の肩に右腕を回した。さらに左腕を山城の頭を抱える。
「へっ?」
 突然の事に瞬きをする山城に。
 ツクモは何も言わず唇を重ねた。
「!」
 目を見開き硬直する山城。
 しかし、ツクモは止まらない。両腕で山城の身体を抱きしめつつ、その咥内へと己の舌を差し入れた。山城の舌を絡め取り、さらに歯や舌の裏、頬まで。山城の咥内を味わうかのように舌を動かしていく。
「ん……んっ……」
 山城の喉から漏れる声。
 しかし、逃げようともせず、抵抗もせず、山城はツクモの舌を受け入れる。、
 たっぷりと二十秒ほど山城の口を味わってから、ツクモは唇を放した。
「あ、ぁっ」
 山城はその場に崩れ、地面に膝を突く。
「勝った」
 満足げに山城を見下ろし、ツクモは長い髪の毛を掻き上げた。

Back Top Next

18/12/7