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第9章 夜九時の一人遊び


「ミナヅキ?」
 リクトは声を掛けた。この身体の本来の持ち主へと。
 それなりに広さのあるミナヅキの寝室。初めて見たときは無惨に散らかっていたが、力任せな大掃除の結果、不要物は全て捨てられ、汚れは全て磨き落とされた。残っているものはベッドと机と空の本棚だけである。
「…………」
 返事はない。意識も感じない。
「本当に眠っちゃったのか?」
 自分の頬を軽く引っ張ってみる。ミナヅキの頬を引っ張るような気分で。だが、反応は無かった。完全に眠っている。風呂から上がり寝間着に着替え、ミナヅキはベッドに潜り込んで、そのまま眠ってしまった。寝るのはいつも早いらしい。
 ミナヅキの意識は眠っても、リクトの意識が動いているため、身体は起きている。
 午後九時。リクトが寝るには早すぎる時間だった。
「好きにしていいって言ってたよな?」
 リクトは胸元に視線を落とす。
 男にはない、丸い膨らみが寝間着を押し上げていた。そっと手を触れる。張りのある大きな水風船を触っているような感触。胸全体を撫でるように、両手を動かした。
「ん……」
 じわりと胸の奥が熱を帯びている。
 言いようのない切なさに、両足を擦り合わせながら、リクトはミナヅキの――同時に自分の乳房を撫で、指を押し込み、その形と柔らかさ、弾力を確かめていく。
 雪の模様が画かれた青い寝間着。正面のボタンを外し、前を広げた。
 就寝用のタンクトップ型のブラジャー。そして、よく引き締まった水色のお腹。自分の身体でありながら、自分の身体ではない違和感。
「やっぱり、女だよな。これ」
 リクトはブラジャーを持ち上げる。
 乳房が空気に触れ、微かな寒気を感じた。しかし、身体の芯は熱を帯びている。青い乳首がつんと起っていた。刺激を待つように。
 両手の指で、乳首を摘む。
「んっ!」
 身体を小さく跳ねさせ、リクトは息を飲んだ。胸から背中へと電気が走る。男では感じたこともない衝撃。女だからなのか、ミナヅキだからなのかは分からない。
 ゆっくりと捏ねるように指を動かしていく。
「んっ、ぁ……はっ――凄、い……!」
 背中を丸め、リクトは甘い吐息を吐き出した。両手の指が小さな乳首を摘み、転がし引っ張り、押しつぶす。そのたびに背筋を駆け抜ける快感の痺れ。
 喉の奥が焼けるように熱い。
 何かから逃げるように、寝返りを打つ。しかし手の動きは止まらない。自分の意志とは無関係に、快楽を貪っていた。
 不規則に尻尾が動いている。
「あっ……ん……」
 仰向けのまま胸全体を手で包みながら、乳首を少し強めに摘む。小さな痛みとともに、震えるような快感が全身を駆け抜けた。
「ンッ――!」
 男とは全く違う快感に、身体が仰け反る。何度か全身を震わせてから、リクトは息を吐き出した。軽く達してしまったようである。だが、疼きは収まらない。
 下腹部が熱を帯びているのが分かる。
「こっちも――」
 左手で胸を弄りながら、リクトは右手を下ろす。
 一瞬躊躇があった。
 しかし、リクトは構わず寝間着のズボンに手を差し入れた。
 腰全体を覆うような就寝用ショーツ。その上から、身体の形を確かめるように手を動かした。手の平に触れる滑らかな太股と下腹。男のように固くなく、女性特有の柔らかさと丸みを持っている。
 唾を飲み込み、下腹部を撫でる。
「……っ!」
 何もない股間。ショーツの上から撫でただけで、呼吸が止まるほどの衝撃が走った。
 それでも手は止まらない。ショーツの上からゆっくりと秘部をこする。
「うっ……んんっ――」
 生地越しに感じる女の形。そして、背筋を駆け上がる女の快感。身体が不規則に痙攣し、呼吸もままならない。だが止まらない。
 お腹の奥が熱を帯び、ショーツの生地が微かに湿ってくるのがわかる。喉が渇くような飢餓感。意識が融け、思考が曖昧になっていく。
「我慢、できない……」
 リクトはショーツの中に手を差し込んだ。
 指先を秘部に触れさせる。
「っ!」
 産毛も生えていない割れ目。その形を確認するように、指を動かしていく。張りのある双丘、しっとりと濡れた割れ目、そしてその奥の膣口。かなり生身の人間に近い構造をしているようだった。
 そのまま指を動かし、
「ひっ!」
 身体が硬直する。
「これが――」
 秘裂の上の小さな突起に指が触れた。それが陰核であるとはすぐに分かった。女の快感の中心のひとつ。指で撫でるたびに、射精のような快感が何度も背筋を駆け上がる。
 リクトはこわごわと陰核を撫で始めた。
「んっ、あっ、はっ――これは、凄い……! ああっ」
 蕾のような肉芽を優しく撫で、擦り、軽く摘み、指で弾く。
 その間も胸を弄る左手の動きは止まらなかった。乳房全体を鷲掴み揉みながら、指で乳首を強く摘み上げる。同時に右手は小さな陰核を一心に弄っていた。
「ひっ、これが……あっ、女の――快感……!」
 仰向けのままだらしなく口を開け、リクトはミナヅキの身体が生み出す快感を貪っていた。まるで身体が融けていくような快感。本当に融けてしまわないかと一抹の不安が脳裏を過ぎるが、手は止まらない。
「あっ、は……。んんっ!」
 何かが一線を越えた感覚があった。身を捩り、リクトは歯を食い縛る。呼吸は乱れ、もはやまともに思考が動かない。膨れ上がる快感が身体を満たしていく。
 そして、溢れた。
「んんん……ッ! ふあぁぁっ!」
 擦れた悲鳴とともに、リクトは仰け反った。視界に火花が散り、衝撃が身体を貫く。絶頂を迎えたのだと、朦朧とした意識で理解する。男のものとは違う、深くて重い絶頂感。それが女であるからなのか、ミナヅキの妖魔の身体としてなのかは分からない。
 仰向けの体勢のままさらに何度か痙攣を続け。
「はぁ――」
 脱力する。
 仰向けのまま天井を見つめ、リクトは息を整える。どういう仕組みか、強い倦怠感を覚えていた。肉体的なものよりも精神的なものなのかもしれない。
 暗い部屋を照らす常夜灯の明かり。
「結局最後までやっちゃったな」
 ショーツから手を引き抜き、その手を眺める。透明な液体で濡れた水色の手。
 左手を伸ばしてティッシュペーパーを取り、手に付いた液体を拭き取る。それからショーツの中にティッシュを差し入れ、濡れた股間を拭う。
「んぁっ……」
 背筋を撫でる痺れに、甘い声が漏れた。
 このまま第二回戦も始められそうだが、それはやめておく。
 オーキはティッシュを近くのゴミ箱に放り込み、下着と寝間着を直した。ひとまず元の格好に戻ったミナヅキ。
「ミナヅキに何て言おうかな? 怒るかな?」
 ジト目で呻く。勝手に自分の身体で自慰に耽られれば、いい気持ちにはならないだろう。ミナヅキは好きにしていいと言っていたが、だからといって実際にやるものではない。
「リクトさん」
「!」
 いきなり口が動き、リクトは固まった。
「ミナヅキ、いつから――」
「ティッシュで拭いてたあたりです。わたしの身体で楽しむのは構いませんけど、できれば今度はわたしが起きている時にお願いしますね」
 ミナヅキがつらつらと言ってくる。怒ったり呆れたりとおう感情は見えない。むしろそこはかとなく残念そうな感情が読み取れる。ミナヅキは自慰などの行為に興味はあるが、自分でやる勇気がないと言っていた。リクトが一緒にやるなら諦めがつくらしい。
 初体験の機会を逃したのが残念だったらしい。
「わ、分かった」
 腑に落ちないものを感じつつも、リクトは答えた。ミナヅキの意識がある状態でミナヅキの身体を弄り回すというのは、実はかなり恥ずかしいことかもしれない。ミナヅキではなく、リクトにとって。
「はい。では、おやすみなさい」
 その言葉を最後に、ミナヅキの意識が消える。
 眠ってしまったらしい。
「俺も寝るか……」
 自分に言い聞かせるように呟き、リクトは目を閉じた。


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14/9/24