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第14話 アルバイトに行こう |
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部屋着ではない外行きの少し高い服を着て、荷物や書類を鞄に入れる。オーキは屈みに向かい髪型を直していた。櫛で髪を梳き、襟元を正す。鏡に映った自分の姿を眺め、問題が無い事を確認。大学の面接の時ほどではないが、緊張してしまう。 「どうした? どこか出掛けるのか?」 聞こえてきた声に、オーキは振り向いた。 リビングテーブルに座ったラセン。退屈そうに脚を揺らしながら、オーキを眺めていた。今ではすっかりこの家に馴染んでいる。 「ああ。バイトの面接だ」 オーキは答えた。 アルバイト。実家からある程度の仕送りはなされているが、それだけでは足りない部分もある。そのため、適当にアルバイトをして自分の使う金銭を稼がなければいけない。 「お前も大概忙しいな」 腕組みをし、ラセンが呻く。 「学生ってのは色々やることあるんだよ」 大学の勉強と、居候先での手伝い、アルバイト、さらに友人関係や趣味など。休んでいる時間が無いかと思うほどだ。それでも若い頃は多少無茶をしても身体がついてくるとはクリムの言葉である。 ラセンが脚を曲げた。リビングテーブルの上に脚を置き、直立する。黄色い瞳をオーキに向け、尻尾を動かした。 「ふむ。アタシも退屈すぎて捻れそうだ。そのバイトの面接というのも面白そうだから、アタシを連れて行け。街の様子も見てみたいし」 「無茶言うな」 手を振るオーキ。 ラセンが動いてから半月ほど経つが、いまだに一度も外に連れ出していない。庭に出すことはあるが、この家の敷地からは出したことが無かった。大きさこそ違えど、人間の子供とそう変わらない思考と感情を持つ人形。下手に人目に付くと何かしらの問題を起こしそうと考えたからだ。 「いや、そうでもないぞ?」 「クリムさん?」 いつの間にか部屋の入り口にクリムが立っていた。 人差し指をラセンに向け、 「アルバイトの面接に、その子を連れて行きなさい」 「えっ?」 予想外の言葉に、オーキは耳を疑う。 ラセンも尻尾を立て、目を丸くしていた。いきなりこのような事を言われてるとは思っていなかったのだろう。言われる理由が分からない。 クリムは悪戯っぽく片目を閉じ、 「詳しい事は着いてからのお楽しみ。私がそこを君のバイト先に紹介したのも、ここから近いとか、そんなに負担にならずにできるとか、そういう理由があるけど。ちゃんと本命の理由があるんだよ」 「ラセンに関わる事ですか?」 「そういうこと」 オーキの問いに楽しそうに頷く。 アルバイト先を紹介したのはクリムだった。ここからすぐ近くであり、そう負担にならない仕事と言われている。おおまかな事を聞き、オーキはあっさり頷いた。しかし、底意があったようだ。 やや緊張しながら、オーキは足を進める。 大きめの肩掛け鞄にラセンを入れ、上に大きめの布をかぶせる。人目に付かないようにするための処置だった。ラセンが大人しくしていれば、まず気付かれないだろう。オーキが容易した書類なども一緒に鞄に入れていた。 「おお。これが人間の街か」 隙間から周囲を眺めながら、ラセンが興奮した声を漏らしていた。 住宅街の道を歩いているオーキ。休日の昼間であるが、そう人通りは多くない。石畳の敷かれた道路。小綺麗な家や街路樹、公園などが見える。 「凄いな。なんというか、お洒落だ」 声から感じられる興奮の色。 街並はきれいだった。剪定された街路樹や、模様が描かれた柵。所々に立っている看板や標識にも、小さな意匠が施されている。ラセンの言うとおり、お洒落である。 「ここは芸術活動が盛んだからな」 周囲を眺め、オーキは小声で返した。 自治都市キリュウ。芸術の街として国内外でも有名な場所だ。市街には美術館や音楽堂などが並び、公共物には大抵何かしらの意匠が施されている。技術と経済の発展と、そこから生まれる自由時間の有意義な活用。それがこの街の方針だった。そして、美術委員会特別顧問リザリ・フェルなる人物が、その主犯格らしい。 布の上から、ラセンの頭に手を置き、オーキは釘を刺す。 「あと、あんまり目立つような事するなよ? お前が人の目につくと、ややこしい事になりそうだし。喋って動く狐娘の人形だしな。かなり高性能な」 ラセンは非常に高度な魔術機構を組み込まれているため、持って行く所に持って行けば相当な金額になるとクリムは言っていた。気楽に外に連れ出さなかったのも、盗難を避ける意味合いもある。 「ほほう」 ぴく、とラセンの狐耳が動いた。 オーキはラセンの頭を押さえる手に力を込め、釘を刺す。 「言う事聞かないなら、お仕置き。割と本気で」 「…………」 無言の答えが返ってきた。 |
13/2/28 |