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第11話 プレゼント


 翌日の午前中。
 オーキは洗濯機で洗った服やズボンを物干しに下げていく。
 洗濯は雑用の一環だった。家賃は取られないが、その分家の仕事を手伝うように言われている。主に掃除と洗濯だった。
「なあ、オーキ」
 声を掛けられ、オーキは手を止めた。
「何でしょう?」
 振り向いた先にはクリムが立っている。緑色の上着とスカートという恰好だった。赤い髪の毛を指で掻き上げ、周囲に目を向ける。
 それなりに広さのある庭。地面には芝生が植えられ、片隅には花壇が作られている。オーキの故郷の方ではこの庭の広さは普通だったが、街中ではかなり広い部類だろう。
 細く息を吐き出してから、
「昨日あの人形とやったな?」
「……」
 無言でオーキは目を逸らした。
「血を飲ませたら、向こうから抱けって騒いだのだろう?」
 オーキの小指に巻かれた絆創膏を眺めながら、クリムが苦笑している。その様子を見ていたわけではないだろうが、あっさりと起こった事を推測していた。
「ええ……」
 男物のシャツを一振りし、洗濯バサミで挟む。
 干す作業を再開しながら、オーキは庭や道路を眺めた。意識を視覚と聴覚に集中させる。幸い話を聞いている人間はいない。
「別にそういう事をやるなとは言わない。お前くらいの年頃だと、抑えるのも無理だろうし、あの子もそういう仕組みに作られているからな」
 ポケットに手を入れるクリム。
「ただ、私は事情を理解しているけど、旦那と息子たちは知らない。知ったら騒ぐだろうしね。だから、バレないようにやりなさい」
 取り出したのは紙の束だった。
 紙幣ほどの大きさで、表面に模様と文字が書かれている。術を使うための符のようだ。二十枚はあるだろう。書かれている言葉は「ここを閉ざせ」
「何ですか、これ?」
「私が作った魔術符だよ。千切ると防音結界を作るようになっている。持続時間は一時間くらいだ。使うといい。さすがに振動は消せないから、静かにやりなさい」
 クリムは涼しげな表情で説明してきた。周囲を気にしている様子はあるが、恥ずかしがっている様子は無い。かなり昔に結婚し、成人した子供が三人もいる身。その辺りは既に達観しているのだろう。
「……ありがとうございます」
 オーキは礼を言って、術符をポケットに入れた。



「少しさっぱりしたぞ」
 洗濯した服を着て、ラセンが満足げに笑っていた。
 他の服と一緒に洗うわけにはいかないので、手洗いしてから陰干ししていた。生地がいいためか乾くのはかなり早い。
 机の上の定位置に立っているラセン。
「洗うの大変だった……。高い布はこういう所が面倒くさい」
 ベッドに腰掛け、オーキはラセンの服を眺める。白い上着と赤いスカート。シュウジン生地という非常に高価な布を使って作られているため、洗うのが大変だった。ラセン自身は皮脂などを出さないため、生身の人間ほのように汚れることはないのだが。
「だったら、何か気の効いた服でも作れ」
 口を尖らせ言ってくる。
「それだけど、もう作ってある」
 オーキはベッドから立ち上がり、机に近付いた。引き出しから箱をひとつ取り出し、ラセンの目の前に置く。手の平に乗るくらいの紙の箱だ。
「ほほう。意外と気の効くことをする」
 狐耳を動かし、興味深げに箱を見下ろすラセン。
「これだ」
 箱を開け、中身を取り出す。
「へ?」
 ラセンが瞬きをした。
 それは赤い帯だった。皮革製で幅があり、解れないように縁が縫ってある。端には金色のバックルが取り付けられ、反対側には小さな穴がいくつか開けられていた。
 端的に言って、それは首輪である。
 ラセンが次の行動を取れずにいる間に、オーキはラセンの首に首輪を巻き付け、バックルを留めた。軽く先端を引っ張り、完全に固定する。
「おい待て!」
 ようやく我に返ったラセンが、慌てて首輪を掴む。
「何だこれは! 首輪って、アタシをおちょくっているのか! 飼い犬や飼い猫じゃないんだぞ? てか、どうなってるんだ、これは……! 外れないぞ――!」
 必死に首輪を外そうとしているが、外れない。
 あり合わせのものから作った首輪だが、構造はしっかりしている。またバックルに癖があり、単純に外そうとしても外れないようになっていた。
 オーキはラセンの頭に手を乗せる。にやりと笑って、
「大丈夫だ。凄く似合うから」
「おいっ!」
 怯えたように身体を強張らせ、ラセンは叫んだ。

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12/10/25