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第15話 曇り日の朝


 カイは背伸びをしてから窓辺へと歩いていく。
 いつもはミドリに起こされるのだが、今日は一人で起きた。ミドリは窓辺に置いたベッドの上でうとうとしている。起きてはいるようだが、微睡んでいた。
「曇りか……」
 窓の外を眺めてから、カイはミドリを見やる。
 いつも日の出と同時に起き、日没と同時に眠っていた。太陽光が関係しているようである。以前、好奇心で空き箱をかぶせてみたら、そのまま眠ってしまった。曇りの日は初めてだが、予想していた通り活動が鈍くなるらしい。
「おい、ミドリ。起きろ」
「はい。ふぁあ。おはよう、カイ……」
 眠そうに欠伸をしてから目を擦り、カイを見上げる。
 具合を確かめるように羽を動かして、ミドリは飛び上がった。力なく宙を移動してから、ふらふらと落ちる。飛んでいる気力もないらしい。
 カイは両手を差し出して、ミドリを受け止めた。
「眠いなら寝ててもいいぞ。無理に動くことはないし、急いでやることもないし。魔法の練習は明日やればいい。今日は家に籠もって絵の仕上げだから、どこかでミドリが被写体になることもないし」
 目を擦りながら、ミドリは首を左右に振る。
「ふぁ、眠い。でも散歩行こう。朝は散歩行かないと落ち着かないから」
「行きたいなら行くけど、飛んでいられないだろ? その前に顔洗った方がいいんじゃないか? 顔洗えば眠気も減るだろ」
 ベッドの隣に置いてある小さなコップを示す。
「うん。そうだね顔洗おう」
 ミドリはコップの横まで飛んでいくと、両手で縁を掴み。
 顔をコップの水に突っ込んだ。
「おい……」
 ぷくぷくと小さな泡が浮かんでくる。水に浸ける練習のように、耳の手前まで顔を突っ込んでいた。いつもは普通に洗っているのだが。
 五秒ほど眺めていると、泡が消える。
「ふはぁ」
 ミドリは水から顔を上げた。顔を水に突っ込んだせいで、前髪が濡れている。顔から落ちる水滴が服を濡らしているが、さほど気にしていないらしい。
 首を左右に振って滴を飛ばしてから、ベッドの横に置いてあった帽子を頭に乗せた。
「水飲んだら少し元気になった。散歩行こう」
「その前に顔拭け」
 カイはハンカチを掴んでから、ミドリの肩を左手で掴む。身体が小さいので力加減が難しいが、無理ではない。ぽんぽんと優しく叩くように、水気を取っていく。
 ほどなくして水気が消え、カイはハンカチを片付けた。
「もう大丈夫だよ」
 言いながら、湿った前髪を払うミドリ。
 カイは両手でそっとミドリを掴むと、肩に乗せた。
「じゃあ、いつもより十分くらい遅いけど散歩行くか」

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