Index Top 妖精の種

第14話 魔法の練習


 街外れの空き地。
 カイは携帯式の画材道具を持ち、風景画を描いていた。街の学校で美術の教材として使われるものである。美術委員会はこのような仕事も引き受けていた。前衛的すぎると理解できないので、画法の基本を抑えた簡素な水彩画である。
 森と草地の風景を手早く下書きしてく。
「ねえ、カイ」
 ミドリが声を上げる。
 近くの柵に座って魔法の練習をしていた。遠近法を取り入れるために、ミドリも絵の中に入れてある。キャンバスの左下にミドリの姿が書き込まれていた。
「これでいいかな?」
 両手を向かい合わせて、集中する。
 音もなく、手の間に輪郭のない力が収束する。呼吸法と精神集中から生み出させる基本的な魔力。人間とは性質が違うだろうが、専門家でないのため詳細は分からない。
「そんな感じだな。でも、二日でそこまで成長するものなのか? 普通は一週間くらい掛かるのに。妖精だからなのか? 人間より寿命の長い連中は成長も遅いというし……」
「二日って早いの? カイはどれくらい掛かった?」
 両手の間の魔力を見つめ、訊き返してくる。
 カイは鉛筆の尻で耳の後ろをかいた。魔術を使わずとも日常生活に困ることはない。光の魔術が使えなくとも、ランプはどこにでもある。水の魔術が使えなくとも、水道を探せばすぐに見つかる。
「俺は五日だな。興味本位で覚えた。三ヶ月もよく頑張ったよな」
 昔のことを思い出し、カイは感慨深く頷いた。図書室から借りてきた魔術基礎教科書を見て、一人で三ヶ月練習を続ける。最初は七人くらいで始めたのだが、六人は一ヶ月で投げ出してしまった。
「魔法使えるようになるのに、三ヶ月もかかるのかぁ」
 道のりの長さに落ち込むミドリ。
 それを励ますわけではないものの、カイは言ってみた。
「魔術師が魔力機構を無理矢理動かせば、三日で使えるようになるのも魔術だし」
「それやれば、わたしも魔法使えるかな?」
「お勧めはしない」
 きらきらと緑色の瞳を輝かせるミドリに、首を振る。
「その場合は、力が制御できずに数ヶ月疲労感に苛まれるらしい。学者か軍人にでもならない限り、魔術は使わないしな。俺はよく知らないけど」
 鉛筆を動かし、続けた。一般人でも鍛えればそれなりのレベルまで成長できるらしいが、趣味でそこまでする物好きは少ない。
「次はどうすればいい?」
 ミドリの問いに、カイは左手を上げた。指を回すと、魔力が緩い渦を作る。
「そうだな。魔力の形を変えるとか、色を変えるとか、遠くで集束させるとか、基礎的なことを一通りやってから、小さな灯りを作ってみる。まずは、四角く固定からだな」
 指先に生まれる四角い魔力の塊。これが星形に固められれば基礎は終わりである。魔術を使う上で、魔力の形状を変化させる機会は少ない。
「分かった」
 頷き、ミドリは両手を向かい合わせた。

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