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第15話 異跡へ


 ジョウコウ帝国二十六番異跡。五段階評価の中で危険度は2。
 見張りの兵士に許可書を見せ、ロアは立入禁止区域へと足を踏み入れた。
 邪魔になる荷物は詰め所に置いてある。今は最小限の物しか持っていない。その気になれば、詰め所から召喚魔術で荷物を取り寄せることもできる。
 詰め所から一キロほど進んだところで、
「えっ!」
 アルニが小さく声を上げた。ロアの肩に掴まったまま、辺りを見回す。
 まばらに草の生えた痩せた土地。道の先には、奇怪な形の岩山が見える。周りの草原とは違う枯れた土地。異跡の近くはどこもこうなっている。
 一見しただけでは何も変わっていない。だが、明らかに空気が変わった。
「なんですか、コレ? 急に重苦しくなって。それに、少し寒くなったような」
「外界と異跡の境を越えたんだよ」
 ロアは手短に答える。左手を剣の柄に置き、
「ここから先は、普通の生き物の住む場所じゃない。空気も違うし、環境も違う。稀に物理法則が違うような所もある。ここはそんなに危険な場所じゃないけど」
 道とも呼べない道を歩きながら、説明した。踏み固められた草の生えていない場所が、奥の岩山へと一直線に続いている。
「それでも、油断すると危険だ」
 ロアは右手を伸ばした。
「氷針」
 指先から放たれる、五本の氷の針。
 狙い澄ましたように、輪郭だけの獣を貫く。脈絡なく地面から現れ、ロアへと飛びかかった。透明な犬のような生き物。もっとも、動きを読まれ、あっさり倒されている。
 獣は溶けるように地面に消えていった。
 アルニがごくりと喉を鳴らす。
「何ですか――今の?」
「幻獣」
 ロアは素っ気なく言った。
「見ての通りの幻の獣。不安定な存在で、異跡の外には出られない。だけど、異跡内では死ぬこともない。異跡を守るために、侵入者を攻撃する。ちなみに、遺跡内で死んだ生き物を核にエネルギーが集まって作られたモノだから、人間の幻獣もいる」
「お化けじゃないですか!」
 慌てて叫ぶアルニ。生物の残滓という意味では、お化けという言葉も間違いはない。明確な実体を持たないため、魔術でないと倒せないのも幽霊と同じである。逆を言えば、幽霊程度の危険性しかない。
「うぅ。わたし、お化けとか怪談とか怖いモノ苦手なんですよぉ」
 怯えたように言いながら、ロアの肩を掴む手に力を入れる。さきほどまで元気だったのだが、急に元気がなくなってしまった。
 ロアは思ったことを率直に告げる。
「幽霊くらい自力でなんとかなるだろ?」
「怖いモノは、怖いんです!」
 怒ったように言い返してくるアルニ。
 ロアは頭をかいた。

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