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第14話 仕事


 街道の交差する場所にある、クライ市。人口三万人ほどの街である。
 受付の男はロアの差し出したカードをじっと見つめた。
「ロア・ナガレ。一級戦闘技能者……?」
 戦闘技能証明書。魔物退治や異跡調査、傭兵活動などを行う際に、身分証明書兼実力証明書として提出するカードである。魔術による偽造防止処置がなされていて、簡単に偽造できないようになっていた。
「本物?」
 疑わしげに訊いてくる男。才能のある者でも、一級の許可書を得るのは普通三十過ぎ。二十歳にも満たない若者が、一級であることはありえない。
「はい。帝都認定委員会発行の本物ですよ。氷刃のロア。そこそこ名の知られた……言い方悪いですが、いわゆる天才剣士です」
 苦笑混じりにそう答え、ロアは右手を差し出した。
 右手の表面を白い氷が覆う。見かけ以上の魔力を込めて発生された氷。冷気が周囲に広がり、肌寒いほどまで室温が下がる。
「……分かった。ちょっと待っててくれ」
 男はそう言うと、奥へと消えた。
 ロアは右手の氷を払い、手近にあった椅子に着いた。肩に掴まっていたアルニがテーブルに降りる。
 きれいに掃除された、お役所的な室内。カウンターと、テーブルが二つ。白壁の掲示板には、何枚も紙が貼られていた。荷物運びから護衛、調査、異跡の調査発掘の仕事まで。内容は多岐に渡る。特殊職業斡旋所と言われる場所だった。
「ロアさん、何するんですか? お仕事ですか?」
 周囲に誰もいないことを確認し、アルニが訊いてくる。透明化の魔法を使い、ロアにだけ姿が見えるようにしてあった。
 誰も聞いていないことを確認しつつ、ロアは小声で答える。
「ああ。この近くに中規模の異跡がある。そこで発掘したいと思ってる。危険な仕事だけど、一番儲かるからな。ちょうど金も減って来たところだし」
 地脈の交差する場所、異跡。外界とは遮断された小さな異界。地脈から漏れたエネルギーが何らかの形を以て現れる。そこで取れるエネルギーの結晶などは、貴重な魔術の材料などになる。無論、危険な場所だ。
 基本的に国によって管理され、発掘には許可が必要。
「いくらくらいお金貰えるんですか? 何か美味しいもの食べられます? さっき美味しそうなご飯を売っているお店ありましたけど、食べたいです」
 満面の笑顔ではしゃぐアルニ。
「だから、食事代を出すのはオレなんだって……」
「分かりました!」
 ロアのツッコミに、アルニは力強く頷いた。
「わたしもロアさんのお仕事に協力します。見ての通り、わたしは色々なことができますよ。任せてください。きっとロアさんのお役に立ちます」
 胸を張って、言い切る。
 ロアは昨日の襲撃者のことを思い出していた。壊された二人。アルニは確かに色々と役に立つが、方向性が間違っているような気もする。
「おい、兄ちゃん。許可が下りたぞ」
 奥から戻ってきた男が声を上げた。右手に書類を持っている。
 ロアは立ち上がり、カウンターに向かう。肩に掴まるアルニ。
「はい」
「今日から五日間の許可。結晶石は五百グラムまで。最近の相場だと、百二十万クラウンくらいかな。細かい部分は要相談ということで」
「了解しました」
 書類を受け取り頷いた。値段交渉などはなし。結晶石は相場制で、ほとんど値段の変動が起こらない。異跡の管理も相場の安定を目的としたものだが、詳細は省く。
「さてと」
 ロアは書類を眺めた。 

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