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第16話 昼食の時間


 ロアは手近な石に腰を下ろした。
「疲れた」
 異跡の環境は周囲と違い、空気の成分なども少し異なっている。地脈の交差点。空気中のエネルギーが過剰なのだ。ただそこにいるだけでも、疲労が溜まってくる。数日不眠不休で強行軍できるほどの体力はあるが、疲れることは疲れるのだ。
「うー。ここはもう、お化け出ないですよね?」
 辺りを見回しながら、アルニが怖々と訊いてくる。しっかりとロアの肩にしがみついている。ここに来るまでに、二十匹程度の幻獣を倒してきた。動物の輪郭のようなモノで、魔術一発で倒せる程度のモノ。
 もっとも力は普通の動物と同じくらいなので、素人では勝てない。
「この辺りはもう出ないだろ? 結界も張ったし」
 大小様々な立方体の石を組み合わせたような、奇怪な岩山。異跡の影響を受けて、変質したのだろう。もしくは、異跡の影響で大きくなったのか。
「飯にするか」
 ロアは荷物を置いて、食料を取り出した。ハンカチを広げて、上に乗せる。
 乾燥パン二枚と干し肉二つ、野菜の缶詰。日持ちのするものを買ったので、味はあまりよくない。缶切りで缶を開け、横に置く。
 パンと肉の四分の一を切り取ってから、
「これが、アルニの分だ」
「はい……。ありがとうございます」
 きょろきょろと周囲を見回しながら、アルニは礼を言った。いつもなら、大喜びで飛びつくのだが、今は恐怖の方が勝っているらしい。ロアの肩から降りて、ハンカチの手前に降りる。正面ではなくロアのすぐ隣。
「怖いのか?」
「怖いですよ」
 ロアの問いに、アルニは即答した。
「お化けくらい自力で追い払えるだろ?」
 思ったことを素直に尋ねてみる。妖精の力はさほど強くないといっても、幽霊類を倒すくらいの力はある。怖がることはないだろう。
「怖いものは怖いんですよ。ほら、小説とか読んでるだけで、実際に起こったことじゃないのに、感動したり笑ったり怖くなったりするじゃないですか。それと同じですよ。実際に何とか出来る相手でも怖いんです」
 わたわたと両手を動かし、説明する。
「そういうもんなのかね? オレにはよく分からんな」
 呻きながら、ロアは頭をかいた。自分にとって恐怖とは、常に目の前にあるもの。握った拳や銀色の刃から、噂話や政治取引まで。どう贔屓目に言っても普通の生活ではないので、参考にはならないだろう。
「昼飯にするか。味はよくないけど、文句言わずに食えよ」
 ロアはパンと干し肉を指差した。
 アルニは頷き、干し肉を一欠口に入れる。何度かもごもごと咀嚼してから、眉間にしわを寄せた。困ったような呆れたような、微妙な表情。
「うぅ。本当に美味しくないです……」
「草や木の根を囓るよりも数段マシだ。小動物を捕まえて食ったり、地面掘って虫を捕まえたりするよりマシだ。贅沢言うな」
「ロアさん。どういう生活してるんですか?」
 アルニの問いに、ロアは引きつった苦笑いを見せた。

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