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第13話 襲撃者の正体


「無惨だ……」
 殺し屋二人を眺めながら、ロアは首を振る。
 名前は、ハクウンと、ヒライ。二人組の殺し屋。氷の拘束は解いていた。
 今は意識もなく、白目を剥いて涙と涎と鼻水を垂れ流している。時々、思い出したように痙攣していた。周囲にはなんとも言えぬ異臭が漂っている。失禁しているらしい。
 少し離れた所で、ロアは殺し屋二人を眺めていた。
「一時間ほどで無事に情報を聞き出せました。身体に傷も付けていませんし、痛みも与えていません。どうですか、ロアさん? わたしの実力は?」
 胸を張るアルニ。血を流さずに情報を聞き出すことには成功していた。ただ、二人が無事であるかと問われれば、否である。精神に深刻な傷を負っていた。
「いやぁ。なんというか……。凄いな」
 ロアは言葉を濁し、歩き出した。無邪気とは何よりも残酷である。
 結界は解いてあった。放っておけば、二人を見つけた誰かが通報するだろう。もしくは、巡回兵が見つけるはずである。
「ふふん♪」
 得意げに笑い、肩に掴まるアルニ。
 ロアは殺し屋二人をちらりと見やった。今後、毛玉や羽根のようなモノを見るだけで、拒絶反応が起るだろう。殺し屋としては無論のこと、一般人としての生活すら難しい。精神科医の元での長期療養が必要だ。
「汚れた仕事に就いた代償と思って諦めてくれ……」
 黙祷するように、ロアは目を閉じた。
 気にせず、アルニが呟く。
「テンクって誰ですかね? あの二人、何でロアさんを襲ったんでしょう? 何か人に恨まれるようなことしましたか? ロアさんは悪い人じゃないですから、他人に恨まれるとは思いませんけど」
 テンク――殺し屋にロアの殺しを頼んだ人物。偽名だろう。身元は不明。というか、殺し屋に自分の素性を晒すような馬鹿はいない。
「逆恨みから政治的なものまで――心当たりが多すぎて、思いつかない」
 苦笑とともに、ロアは答えた。
 近衛四十八士であるということは、それだけで様々な人間から恨みを買う。人柄はさほど関係ない。善人だろうと悪人だろうと、誰からか恨まれるのだ。
「ただ、おそらく竜帝絡みだろうな……」
 さきほどの二人は、ロアが近衛四十八士であると知らなかった。近衛四十八士の名は公表されていないので、当然とも言える。おそらく、ロアの力を見るために放った。本命はどこかでさきほどの戦いを見ていたのだろう。
 もっとも、これらは予想の内ではある。
「ロアさん。何のために竜帝陛下に会いに行くんです?」
「秘密」
 アルニの問いに、ロアは笑った。

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