Index Top 終章 終わりの後始末 |
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第1節 剣士の帰還 |
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純白の光と、吹き抜ける爆風。 それが治まった後には、誰もいない。オメガも、ラインも。 アスファルトの道路は塵と化している。周囲に並ぶビルも、えぐられたように崩れていた。薄い粉塵が靄のように漂っている。 「物質分解爆弾で自爆する。止めないでくれ……だと」 ラインの遺言めいた言葉を思い出しながら、シリックは唸った。密着距離から分解フィールドに曝されては、オメガといえどひとたまりもないだろう。無論、ラインが無事であるはずもない。 ラインは自分の命と引き換えに、オメガを倒したのだ。 倒したが。 「おっさん――」 シリックは呟く。ノートゥングを持ったまま、歩き出した。塵と化したアスファルトに足跡がつく。それは、まるで砂の上を歩いているようだった。分解されたアスファルトは砂のように細かい。 クキィやレジスタンスが、恐る恐るついてくる。 シリックは、やがて爆発の中心までやってきた。 オメガの残骸だろう。いくつかの金属片が転がっている。拾い上げてみると、持ち上げる間もなく崩れ落ちた。乾いた土のように。 「くそっ!」 毒づいて、シリックは地面を蹴る。粉塵と化したアスファルトが舞い上がった。悔しさと虚しさが、胸を満たしている。 「マスター……」 「…………」 黒い塵を見つめ、レジスタンスがパワードスーツのヘルメットを脱いだ。黙祷するように目を閉じている。ラインはもういない。死体も残っていない。塵にまで分解されて、この粉塵の中に混じってしまっただろう。 シリックはふと視線を止めた。 蹴り飛ばした、黒い塵の中に銀色のきらめきが見える。 「何だ……?」 呟きながら、シリックはそれを拾い上げた。手に乗るほどの、銀色の正八面体。見た目ほど重くはない。他の破片のように、崩れることもない。 「何なの、それ?」 「オメガのコアよ」 その声はミストのものだった。 視線を上げると、塵と化した道路の手前に小型バイクが停めてある。 アルミの棒を杖にミストが歩いてきた。右足に包帯が巻かれ、その下のズボンが赤く染まっている。怪我をしたらしい。 しかし、ここにやってきたということは、黒服のオメガは倒せたのだろう。 「物質分解爆弾……か」 アスファルトの塵を棒で払い、ミストは独りごちた。この状態を見て、何が起こったかを悟ったのだろう。寂しそうに目を伏せてる。 「あとは、頼む――って、聞いてはいたけど……」 ミストは誰へとなく呟いた。 だが、口元を引き締めて、レジスタンスを見やる。 「通信施設チームがここにいるってことは、データは発信できたわけね。全員、無事?」 「通信施設チームに……怪我人はいません」 目を瞑ったまま、アーディが答えた。 「怪我人はいますけど……ミスト博士の持ってきてくれたパワードスーツのおかげで、みんな大丈夫です」 コルブランド、キャリバーンの光刃を消して、クキィも答える。その声には、押し殺した悲しみが感じえられた。レジスタンスの人間は、誰も何も言えない。 「ちくしょう!」 シリックはオメガのコアを握り締めた。それこそ、握り潰す気で。しかし、手の平に痛みが走るだけで、亀裂一本入らない。 息を吸い、コアを真上に放り投げる。 空中のコアに狙いを定め、シリックはノートゥングの引き金を引いた。撃ち出されたエネルギー弾が、コアに命中し炸裂する。空中に衝撃波が弾けた。 砕けたコアの破片が、地面に散らばる。 これで、オメガは完全に破壊された。 「おっさん……」 「あとは、レイね」 ミストの呟きに応じるように。 「俺の方は、ほぼ終わった」 |
13/10/27 |