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第10節 解放された力 |
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スティルは、デウス社の屋上で二つの光を見ていた。 デウス社と街をつなぐ道路の中ほどで起こった、天を衝く閃光。もうひとつは、街の中で起こった小さな閃光。前者は中性子爆弾。後者は、物質分解爆弾だろう。 オメガ一号機と二号機が破壊されたらしい。 「だけど、些細なことだ」 落ち着いて、スティルは呟いた。 オメガを無傷で倒せる人間などいない。オメガと戦ったレジスタンスには、多大な被害が出ているだろう。ジャガーノートを操るミストは死んでいるかもしれない。国際連盟には不正データが伝わっているだろうが、それも何とかなるだろう。 「僕の計画は、始まったばかりだ」 「だが、ここで終わる」 「!」 聞き覚えのある声に、スティルは振り返った。 吹き抜けを隔てて、砂色の男が立っている。 「レイ・サンドオーカー……」 それは、紛れもなくレイだった。吹き抜けに突き落としたというのに。いつからそこにいたのか分からない。切断した両腕も元に戻っている。胸に開いた穴も消えている。 「なぜ!」 「俺にも、よく分からない」 両手を見つめ、レイは冷めた口調で答えてきた。顔付きも雰囲気も、さきほどまでのレイとは明らかに違う。まるで別人のようだ。 ともかく。 「オメガ!」 スティルの命令に応じて、オメガ五号機と六号機が動いた。レイのテンペストによってずたずたにされたが、自己修復機能で七割方回復している。この二体は、オメガの中でも最も機能に優れている。 五号機が両手のレーザー発射機をレイに向けた。 しかし、レイは左手を上げる。 「破砕の砲撃・デグタス」 その前腕が、変形した。口径三十ミリ、長さ一メートルの銃身と、それに付属するいくつもの部品から構成された物々しい銃。 その銃口を五号機に向け―― 次の瞬間には、五号機の上半身がなくなり、遠い地平線付近で砂煙が舞い上がった。 「………………」 何をしたのか、分からない。 呆然と見つめていると、銃身を見つめて、レイが呟く。 「約百発の超比重金属の散弾を、電磁場で加速して撃ち出す……か。基本的な原理はブリューナグと同じだな。威力は桁違いだが――」 言い終わると、その銃口を六号機に向けた。 「貫通の烈光・アイディート」 銃の形が変わる。部品の構成が変わり、銃身が変化した。筒状の銃身から、二枚の細長い板を向かい合わせたような銃身に。 二枚の板の間に、小さな稲妻が走り―― 純白の輝きが瞬き、消える。胸に大穴を開けられ、六号機は倒れた。 「こっちは、レーヴァティンの強化版か」 呟くと、銃口を向けてきた。が、射撃はせずに、走る。 吹き抜けを跳び越え、右手を上げた。 「白銀の聖剣・フィルガイン」 その前腕が、子供の背丈ほどの刃へと変形する。形は細長い二等辺三角形。表面は鏡のように滑らかで、厚さがないと思えるほどに薄い。 音もなく歩くように――だが、不気味なほどの速さで、レイが間合いを詰めてくる。気がつくと、すぐ目の前にいた。剣となった右腕を構え。 「ランス・ブレイク!」 スティルは咄嗟にロンギヌスを突き出す。 が、そこにレイはいなかった。 それだけではない。 ロンギヌスが縦に切断されている。見ていたはずなのに、どのように斬られたのか分からない。見ていなければ、斬られたことにすら、気づかなかっただろう。 「何なんだ……!」 形容できない恐怖に、スティルは寒気を覚えていた。機械の身体に、寒気など感じるはずがないというのに。 「テンペストの強化版か。斬れ味が尋常じゃないが、斬れすぎて困ることはない」 声は背後から聞こえてくる。 慌てて、振り返ると。 レイが、右腕の剣を振り上げていた。それを、振り下ろしてくる。 それはやけにゆっくりと見えた。だが、身体は動かない。避けることはおろか、防ぐこともできない。刃が苦もなく斥力フィールドを突き抜け、装甲を斬り裂いていく。 (何もできない!) それが、断末魔の一瞬だと悟った時に。 スティルの視界は暗転した。 |
13/10/20 |