Index Top 第6章 それぞれの決着 |
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第8節 最後の手段 |
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「自爆――三分前」 オメガを掴む腕の関節が固定され、両腕の発信機からジャマーが発射される。密着距離からの妨害電波に、オメガの動きも止まった。動く左腕をジャガーノートに打ち込んだ状態で、足も地面から離れている。逃げることはできない。 ハッチを開け、ミストはジャガーノートの操縦席から跳び降りた。 「ッ!」 右足に痛みが走る。オメガの左手が掠った、右足。皮膚が浅くえぐられていた。血がズボンを赤く染めている。致命傷ではないが、放っておいて平気なものではない。 ミストは痛みを堪えながら、ジャガーノートの背中から長方形の箱を取り出した。 (ジャガーノートに仕込まれた中性子爆弾なら、オメガを跡形もなく消し飛ばせる。けど、こんな近くにいたら、あたしも巻き込まれる) 長方形の箱は、タイヤやハンドルなどが飛び出して、小型のバイクへと姿を変える。ミストはバイクに飛び乗った。足で走って逃げるのでは間に合わない。 全速力でその場から離れる。 肩越しに背後を見やると、ジャガーノートを囲むように何重もの黒いエネルギーフィールドの障壁が形成された。 ミストは腕時計を見やる。 「あと百二十秒」 ジャガーノートを包むエネルギーフィールドで、飛び散る中性子や放射線の大半を吸収することができるが、全て吸収できるわけではない。発生する爆風も、エネルギーフィールドで防ぎきれるものでない。 爆発の中心から、最低でも二キロは離れていないと、危険である。 小型バイクを走らせながら、ミストは腕時計を凝視していた。 「とりあえず、街に入らないと」 街を囲む壁は、身体を守る盾となる。透過力が高い中性子を防ぐことはできないが、中性子は他の放射線に比べて安全だ。だが、爆風はどうしようもない。 「六十秒……」 焦りながら、街の壁を見つめる。距離は五百メートルほど。これなら、二十秒たらずででたどり着けるだろう。 小型バイクは、その距離を時速九十キロで走っていく。二十秒など、それほど長い時間ではない。だが、この二十秒は何時間にも感じられた。 街の門までたどり着く。 が、散らばった瓦礫や金属の破片のせいで、小型バイクでは街の中には入れない。 「三十八秒」 小型バイクを乗り捨て、ミストは瓦礫を避けながら、壁の影へと歩いていく。右足を地面につけるたびに、傷が鈍い痛みを発する。その痛みのせいで、走ることもできない。歩くこともままならない。 「早く、しないと!」 奥歯を噛み締め、痛みを締め出しながら。 たっぷりと三十秒ほどかけて、ミストは壁の影に隠れた。 そこに、ようやく腰を落す。 ミストは、腕時計を見やり、呟いた。 「五、四、三……」 |
13/9/29 |