Index Top 第5章 戦争が始まる |
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第7節 一対五 |
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スティルの身体から、何本もの銀糸が飛び出した。糸は絡み合いながら、全身を包んでいく。やがて、糸は重厚な銀色の鎧へと変化した。 「防御を固めたか」 テンペストを構えながら、レイは呟いた。これでは、生半可な斬撃は通じないだろう。攻撃をオメガに任せて、自分は防御に徹する気か――と思ったのが。 スティルは右手を上げた。 「防御だけじゃない。プログラム・ストレンジス――起動」 その前腕が砕け散る。腕を砕いて飛び出したのは、円錐形の槍だった。前に百三十センチ、後ろに七十センチ。淡い白光を帯びている。一見するとだたのエネルギフィーフィールドに包まれた槍だが、直感が告げていた。絶対に触れるな、と。 「ロンギヌスだ」 呟きながら、スティルは動く。槍を包む光が増した。尋常でなく、速い。ロンギヌスが穂先が迫ってくる。穂先は、レイの胸――コアを狙っていた。 その一歩前に、レイも動いている。白い槍をテンペストで受け止めようとした。 が、刃が触れたと同時、剣が弾かれる。剣は回転しながら、勢いよく真上へと飛んでいった。触れるだけで弾き飛ばすなど、ありえないことであるが。 「これは――」 判断は保留し、レイは懐から二本のビームダガーを取り出した。刃渡り三十センチの薄紫色の光刃。一級品であるが、相手の武器に対しては出力が足りない。敵は全方向から襲ってくる。どれも、異様な速度。食らえば無事ではすまない。 「起動率六〇〇パーセント!」 三号機のビームブレードと、四号機のビームソードを回転しながらダガーで受け流す。その動きのまま身を沈め、接近してきた背後の五号機と六号機の足を払った。倒れる二体には構わず、襲い掛かってきたスティルの顎を蹴り上げる。 しかし、視線を転じると、全員が態勢を立て直していた。 破壊の意思が、知覚を超えた速度で追いかけてくる。それを一撃でも食らえば、終わりだろう。それから、逃れるために、意識は限界まで加速していた。 (とにかく、頭数を減らす!) テンペストは、二十五階と二十六階の間の壁に刺さっている。手から放れたせいで、チェーンブレードは止まっているらしい。 ダガーの一本を口にくわえ、レイは跳び上がった。ポケットから取り出した高性能爆弾を放り投げる。爆弾はオメガたちの中央に落下し、爆発した。空気が波紋のように、ガラスを砕いていき、透明な破片が雨のように降り注ぐ。 しかし、それは牽制にすらなっていない。 オメガ四体とスティルが、煙の中から飛び出してくる。両腕のビームブレードを構えて、三号機が向かってくる。空中では避けられない。 関節を無視した動きで、繰り出される二本の光刃をダガーで受け止めると―― 右足を振り上げてくる。その脛から飛び出すビームブレード。背後には、別のオメガが迫っている。鞘走りの音。六号機らしい。右には、スティル。 「ランス・ストローク!」 「思考が追いつかない!」 呻きながらも、身体は動いていた。両手のダガーを前後に投げ、三号機の右足を掴む。相手の動きを利用して、三号機を後ろに放り投げて、六号機に叩きつけた。突き出されたロンギヌスに右腕を触れさせ、スティルの顔面に右足を打ち込む。 その反動で、レイはその場から離脱した。 行動した後に、意識がそれを認識する。このような感覚は、久しい。自分がただのアンドロイドだったならば、回避できなかっただろう。敵は、それだけ強い。 右腕を見ると、表皮と人工筋肉の一部がえぐられている。機能に障害はないが、 (触れるだけで、この傷か。まともに食らえば、致命傷だな) 七階の壁に足をつけ、レイは周りを見回した。 三号機、六号機は壁に向かって飛んでいく。スティルの姿は見当たらない。視界の外へ消えたか、隠れたのか、それとも落ちたのか。詮索している余裕はない。 レイは壁を蹴った。 その壁が斜めに焼き斬られる。四号機のビームソード。 (俺の身体を斬るには十分な出力だ) レイは懐から三本目のビームダガーを出しながら、四号機を見やった。 四号機は追ってこない。壁に左手を突き刺し、右手を横に構え、なぎ払うように振るう。その手から伸びたビームソードが、さらに伸びた。 吹き抜けよりも長い光刃が、壁を斬りながら襲ってくる。 「!」 ダガーがビームソードを受け止めた。しかし、性能の桁が違う。ダガーでソードを受け止めることはできない。ダガーの光刃を斬り抜かれる前に、レイは衝突の力を利用して、身体を真上に跳ね上げていた。 「しまった!」 レイは舌打ちする。この時を狙われていた。 五号機が両手の指を向けてくる。指にはレーザー発射機十本。その十本全てが身体の急所を狙っていた。空中で、無理矢理体勢を変えた直後では、避けられない。 覚悟を決めて、レイは左手を振る。 十本のレーザーが、身体を貫いた。急所は外れている。レイが投げ放ったダガーが、五号機の右目に刺さっていた。攻撃が逸れたのも、そのおかげである。 しかし、二本が右肩と左膝をの関節部を撃ち抜いていた。右腕と左足を動かせない。 (修復には、三十秒……) 十五階の廊下に飛び込み、レイは視線を転じた。 「!」 スティルが上の階めがけて跳んでいく。その先には、壁に刺さったテンペスト。武器を破壊する気らしい。テンペストがなければ、勝ち目はない。 レイは、左手だけで懐から五本のナイフを取り出し、投げ放つ。標的はスティルではない。ナイフはテンペストの真横に突き刺さり、仕込まれた高性能爆薬が壁を砕いた。 テンペストが回転しながら、飛んでくる。 「なに!」 スティルがテンペストを目で追う。が、身体はついていかない。 レイは右足の脚力だけで跳躍した。空中で、テンペストの横軸の根元を掴む。 「この剣は、伊達や酔狂でこんな扱いにくい形をしているわけじゃない」 柄の部分が縦に割れて、空間圧縮で収納されていた口径三十ミリの砲身が現れた。手元に引き金も現れる。テンペストのもうひとつの姿。 「剣士たるもの、剣だけに頼ってはならない――!」 |
13/7/28 |