Index Top 第5章 戦争が始まる

第5節 新旧最強の戦闘機械



 ジャガーノートの操縦席に座り、ミストは意識を集中させた。
 頭部に装着されたゴーグルのような特殊モニターには、ジャガーノートの視覚センサーが捉えた映像が映っている。約百メートル先を走る、黒い服を着た男と、左腕を失った女。ともにデウス・シティ目指して走っていた。
 自分はそのどちらかと戦わねばならない。
(レジスタンスがオメガを倒せる確立は……高くない)
 ミストは黒い服を着たオメガに狙いを定めた。頭部に装着された、ヘッドギアのような装置が、脳内の信号を読み取り、計算し、ジャガーノートを動かす。
 右腕の前腕から飛び出した機関砲が、火を吹いた。撃ち出された弾丸は、時速百五十キロで走っているオメガの足を直撃する。足を折ることはできないが。
 オメガは足をもつれさせた。だが、倒れない。
 その間に、ジャガーノートがオメガとの間合いを詰める。
 オメガが振り向いてきた。その時には、ジャガーノートが左腕を振っている。斜め上から振り下ろす、速く、重い打撃。それを――
 ガァン!
 オメガは両腕で受け止めた。オメガの両足が、アスファルトの地面にめり込む。
 シリックとクキィの乗ったジープが脇を走りすぎていく。女の姿をしたオメガは、元より止まることはなかった。仲間に構いもせず、デウス・シティへと走っていく。
「さすがは、オメガ汎用機ね」
 改めて、その戦闘能力に驚く。が。
 オメガは十メートルほど後ろに飛び退いた。
「我々は、レジスタンスを潰さなければならない。邪魔をするな」
 機械的な口調でそう言うと、背を向けて走り出す。ジャガーノートには目もくれない。あくまでも目標はレジスタンスということらしい。
「それなら――」
 ミストは呟いた。自分を無視するというのなら、できなくするまで。ジャガーノートの左腕から飛び出したレーザー砲が、オメガの背中を狙う。
 低出力のレーザーが、オメガの背中とジャガーノートの左腕を結び――
 鼓膜を突き破るほどの爆音と、網膜を焼くほどの閃光が炸裂した。
 オメガが倒れる。その身体からは、薄い白煙が立ち上っていた。周囲のアスファルトは、焦げて粉々に砕けている。今の一撃の余波によるものだろう。
 ジャガーノートは走り、オメガめがけて右拳を振り下ろした。爆発するような音を響かせ、砕けた道路に穴を穿つ。アスファルトの破片が飛び、亀裂が広がった。
 が、そこにオメガはいない。
 左に視線を移すと、そこにオメガが立っている。服はぼろぼろに焦げて、動きもぎこちない。時折、身体に細い稲妻が走っていた。先の攻撃の効果だろう。
 距離は十五メートル。ミストは不敵に微笑む。
「どう? 五十億ボルト電撃砲の威力は。そこらの機械なら、一発で機能停止なんだけど。動けるなんて、強度も折り紙つきね」
「…………」
 無言のまま、オメガは街に目を向けた。
 ミストがジャガーノートの左腕を上げると、オメガが警戒するように視線を戻してくる。それが危険な武器と理解してくれたらしい。
 電撃砲。レーザーによって空気中に電気の通り道を作り出し、五十億ボルトの電気を流す。それは、大抵の相手を無力化できる。欠点といえば、充電に時間がかかることくらいだろう。ジャガーノートの切り札のひとつ。
「逃げようとすれば、電撃砲の餌食よ。あなたが、いくら最強の戦闘機械であるオメガでも、これをあと二、三発食らえば、機能停止に陥るわ」
「なるほど」
 感情のない声で、オメガは言った。身体の状態とは裏腹に、声に変化はない。オメガ汎用機には痛覚もないし、恐怖もない。
「お前の目的は、私を足止めすることか」
「違うわ。あんたを倒すことよ」
 ミストは言い返す。しかし、オメガ汎用機は、試作機であるレイのような心を持っていない。擬似的な感情もない。何を言われても、何も感じないだろう。
 オメガはミストの話を聞かずに、一人続けた。
「私の目的の障害となるならば、排除する。電撃砲の射程は中遠距離。近距離では命中させることはできないだろう」
 言い終わると、オメガは物々しい構えを取える。その拳が青いエネルギーフィールドに包まれた。攻撃力を高めるためのものだろう。
 ジャガーノートも身構えた。その拳が、白いエネルギーフィールドに包まれる。
「破壊する」
「やってみなさい!」
 オメガとジャガーノートがお互いに飛び出した。拳を突き出す。
 エネルギーフィールドがぶつかり合い、白い稲妻を撒き散らした。操縦席内部まで衝撃が伝わってくる。その威力に、ミストは戦慄した。
 だが、今さら逃げるわけにはいかない。
 二体の戦闘機械は、お互いに飛び退き、次の攻撃動作に移る。

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13/6/30