Index Top 第6章 鋼の書

第4節 残りは一枚



 一矢は、アルテルフの元へと駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
「アンチドート!」
 メモリアが解毒の魔法を使おうとしたが。
「無理だよ……。この結界内じゃ、魔法は発動しない……」
 言いながら、アルテルフは懐から注射器を取り出す。太股に刺さった短剣を引き抜き、ためらうことなく傷口に針を刺し、中身を注射する。注射器をしまい、取り出した包帯を太股に巻きつけながら、
「この症状は……セイク君に使った毒と一緒だ……。解毒薬を用意しておいて、よかったよ。今の注射で命は助かる。だけど……傷のせいでしばらくは戦えない」
「分かった」
 頷いて、一矢は刀を抜いた。マントから最後の原稿用紙を取り出す。
 それを見つめて、ハドロは笑った。
「残りは、一枚だな……」
「なるほど……」
「そういうことね……」
 一矢とテイルは、理解する。
 ハドロは原稿用紙に対する対策を立てていない。魔法を封じて普通に戦っていれば、原稿用紙を使わなければならない事態に陥り、勝手に一枚ずつ消耗していく。
 この状況を打破するには――
「テイル、何か名案はないか?」
「とりあえず、この結界を破壊する」
「だな」
 同意して、一矢は尋ねた。刀を正眼に構えたまま、
「アルテルフ博士。この結界を壊す方法はありませんか?」
「この城の近くのに……魔力を込めた呪符が……置いてある。それを……一枚以上、壊せば……結界は、消える……」
「わたしが行く!」
 メモリアが声を上げる。
「頼む」
「任せて!」
 決意を表すように左手を握り締め、メモリアは廃城の門の方へと走っていった。
 その後姿を見送ることもなく、一矢はハドロに向き直る。ハドロは動いていない。槍を下ろし、余裕の笑みを浮かべていた。
「最後の一枚で、お前は何をする?」
「考え中だ」
 言いながら、一矢は戦力を分析する。
 自分の武器は刀、刃渡りは八十センチ弱。質はいいが、魔力も神気も込められていない鋼鉄の武器。ハドロの武器は槍。だが、ただの槍ではない。灼熱する穂先を持つ魔槍ヒートスパイク……武器の差は無論、技術的な差は言うまでもない。
 ハドロは傷を負っているが、
(正攻法じゃ、勝ち目がないな……)
 それでも、やるしかない。
 一矢は原稿用紙をマントにしまい、駆け出した。
 刀を振り上げ――

Back Top Next

12/7/1