Index Top 第4章 物語は急展開する |
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第2節 生きていた死者 |
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「実力で奪い返してみろ。できるもんならな」 ハドロが嘲笑する。 一矢は息を吸い、地面を蹴って―― その足を掴まれ、息を止めた。死人に足を掴まれたという錯覚を感じながら、一矢は視線を落とす。足を掴んでいたのは、セイクだった。 顔中に冷や汗を浮かべながら、言ってくる。 「駄目だ……。君じゃ……所長には勝て、ない……」 それだけ言うと、目を閉じた。今度こそ意識を失ったらしい。 それを見てから、一矢はハドロを睨んだ。ひとつ気づいたことがある。 「ちょっと待て。こいつは、『アルテルフ博士になりすましていた』って言ってたが、本物のアルテルフ博士はどうしたんだ!」 その問いに、ハドロは心底嬉しそうに笑うと、 「アルテルフは、半年前に死んで――」 「いないんだよ。実は」 パン、という破裂音。それが何なのかは理解できなかった。ただ、一矢の間近を、見えない何かがとてつもない速さで飛んでいく。それは、ハドロの右肩に命中した。 細い槍で突かれたような傷口から、血が流れ出す。 「うっ」 ハドロは傷口を手で押さえた。憎々しげな視線を一矢の後ろに移す。 その視線を辿るように、一矢とメモリアは振り返った。その先に―― ぼろ布のようなマントをまとった男が立っている。ぼさぼさの赤髪、右目に眼帯をして、左手に白い手袋をはめていた。突き出した右手に、銀色の何かを持っている。 「この希代の天才科学者シェルタン・アダフ・アルテルフを、あの程度で殺せるとは……僕を甘く見ないでほしいね。まあ、僕もこの半年間は、有効に利用させてもらったよ」 「アルテルフ! 生きていたのか……!」 目にありありと驚愕を浮かべ、ハドロが呻いた。攻撃を仕掛けようと、左手で懐から四枚の呪符を取り出す。が…… 三発の破裂音がして、呪符が千切れ飛んだ。 本物のアルテルフが歩いてくる。一矢とメモリアは何も言えずにそれを眺めていた。 アルテルフは地面に倒れているセイクを見つめ、 「彼には話してもらいたいことが沢山ある。ここで死なせるわけにはいかない」 そう言うと、左手で印を切り、呟く。 「アンチドート」 それは、解毒の魔法なのだろう。気を失ったセイクの苦しげな顔が、緩む。しかし、意識を取り戻さないということは、毒が消えたわけではないらしい。 アルテルフは右手を上げた。その手に握られているのは、 「リボルバー!」 一矢は叫んだ。それは回転式の弾倉を持つリボルバーだった。銃身は約二十センチ。全体は白銀色の金属のような物質でできている。撃鉄や引き金などの構造は現実世界のものと何ら変わらない。精度も現実世界の拳銃並に正確なのだろう。 「よく知ってるね」 言いながら、アルテルフが引き金を二度引く。撃ち出された弾丸はハドロの右腕を直撃した。痛みに握力が緩んだのか、鋼の書が地面に落ちる。 しかし、リボルバーの装填弾数は六発。弾丸は撃ち尽くしてしまった。マガジン式の拳銃ではないので、弾丸の装填には時間がかかる。と思ったら―― アルテルフは弾倉を横にずらすと、左手で印を切った。 「シルバー・ブリッツ」 空中に出現した六発の銃弾が、吸い込まれるように弾倉へと装填される。弾倉を戻し、アルテルフは銃口をハドロに向けた。 「さて、ハドロ・クオーツ。あなたの行った数々の不正の証拠は、既に国際科学審議会に送った。あなたの研究所は、じきに解体されるだろう。おとなしく投降して欲しい。逃げようとしても、この家は街の警備兵総出で包囲してある。逃げ場はない」 「そうか……」 呟くと。 「エイゲア!」 ハドロが叫ぶ。それに応じるように、シギと交戦していたエイゲアが吼えた。その声に、嵐のような烈風が起こり、周囲の人間を吹き飛ばす。激しい砂埃が舞い上がった。 アルテルフは弾丸を全て撃ち出すが、一発も当たらない。 渦巻く風の中――エイゲアはハドロを抱えて翼を広げると、空高く飛び上がった。ハドロの手には鋼の書が握られている。その姿は十秒もしないうちに見えなくなった。 「鋼の書が……」 ふらふらと枯葉のように上から落ちてきながら、テイルが呟く。 一矢はテイルを両手で受け止めた。テイルが弱々しく言ってくる。 「どうして、鋼の書を渡しちゃったのよ……」 「鋼の書より、君の命の方が大事だからだ」 その答えに、テイルは何も言わない。 「ところで、君たち――」 意識のないセイクを担ぎながら、アルテルフが全員を見回した。 「事情を説明してくれないか。何やら、深刻な事態になっているようだけど」 |
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