Index Top 第3章 時間の埋め方 |
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第8節 不意打ち |
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ディーヴァの数は十五体。全員がシギを見据える。先頭の一体が細い腕を振り上げた。シギとディーヴァが交錯し―― 胴を斜めに立たれたディーヴァが、塵となって崩れ落ちる。 間を置かずに振り下ろされた爪を、シギは剣で受け止めた。周りのディーヴァたちが一斉にシギに襲いかかる。シギは超人的な反射と速度で、その攻撃を躱し、受け流し、反撃していた。その攻防は、素人の目で捉えられるものではない。 「何て奴だ……」 「一矢さん!」 メモリアの声に一矢は我に返る。シギの戦いを見ている場合ではない。 ディーヴァの一体が、自分たちの方へと向かってきていた。どうやら、自分もやらなければならないらしい。 一矢は全身が粟立つのを感じた。 「こいつは、僕が倒す!」 「あなた、鋼の書なしで倒せるの! こんなバケモノ!」 テイルが叫ぶが、無視して駆け出す。 迎え撃つように、ディーヴァが爪を突き出してきた。反応できないほどではないが、速い。特訓をしていなければ、見切れなかっただろう。刀を下段に構え、 「はッ!」 神気を帯びた刀身が、ディーヴァの腕を斬り落とす。予想を上回るの斬れ味。だが、気を緩めるわけにはいかない。次の攻撃が来る――。 一矢は次いで振り下ろされた左腕を斬り、相手の右側に回った。白く輝く刃が、ディーヴァの右足を深く斬る。が、激痛を感じて、飛び退いた。 右前腕に四本の創傷がある。再生したディーヴァの右手がかすったのだ。苛烈な痛みとともに血が流れるが、止まるわけにはいかない。気合を総動員し、痛みを締め出す。 「おおおおッ!」 一矢は再びディーヴァの右腕を斬り、力任せに両足を両断した。ディーヴァが仰向けに倒れる。が、それで神気を使い切ってしまった。刀を包む輝きが消える。 といっても、武器が尽きたわけではない。 刀を手放し、一矢は後ろ腰から短剣を引き抜いた。それを逆手に持ち直し、倒れたディーヴァの眉間に突き立てる。固まった粘土にナイフを突き立てたような感触と、激痛。ディーヴァの爪が、左の太股を斬っていた。奥歯を噛み締め、痛みに耐える。 ディーヴァは無言の絶叫を残して、塵と化した。 しかし、安心している暇はない。 「シギさん!」 一矢は視線を上げる。 シギの真横にいるディーヴァが、漆黒に輝く爪を振り上げていた。シギはそれに気づいてはいるが、他のディーヴァの攻撃を受け止めていて、防御はできない。 爪が、シギの右肩を狙って振り下ろされ。 「一矢! 鋼の書を!」 (やるしかない!) 一矢はマントのポケットから鋼の書を取り出す。この状況で、鋼の書の怖さや危険性など考えてはいられない。現在のページが開かれ…… 《ディーヴァの爪が、シギの右腕を斬り落とした。シギの顔に苦痛の色が浮かぶ。しかし、傷口からは、血は一滴も流れていない。白い断面だけを覗かせている。 次の瞬間、白い傷口から十数本の白い帯が飛び出した。帯はお互いに絡み合い、瞬く間に右腕を再生させ、服の袖まで修復してしまう。 相手が怯んだその隙に、シギは正面のディーヴァを斬り倒した。一呼吸の間も置かず、自分の腕を斬り落としたディーヴァを斬り捨てる。 これで、敵は全て倒された――》 「動くな、鋼の書の使い手……」 声は突然だった。聞いたこともない声。 悪寒を覚えて振り向くと…… テイルを捕まえ、その首筋にナイフを突きつけている男の姿があった。 |
12/2/19 |