Index Top 第3章 時間の埋め方 |
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第1節 アルテルフ博士を探して |
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技術都市ハムト・カウ。 人口は約二万人。街の中心部には五階建てを超える背の高い建物が並んでいる。その大半が、研究施設だ。そこでは様々な研究がなされていた。住宅街や商店街は中心部にある研究施設を囲むように並んでいる。研究施設で働く人間はここに住んでいるらしい。この街を通過する街道は三本。交通の拠点としても賑わっていた。 中心街に続く道を歩きながら、一矢はシギの言っていたことを思い出す。 襲撃があった日から二日。再び襲撃があると考えていたが、幸いにも襲撃はなかった。一矢が負った傷もメモリアの回復魔法のおかげで、完治している。斬られた上着は、シギから新しいものを貰った。例のごとく、テイルはマントの襟元に隠れている。鋼の書はマントのポケットにしまっていた。 「今度は二日か――」 シギの二歩後ろを歩きながら、一矢は呟く。 「随分と慣れてきたわね。あなた」 襟元のテイルが言い返してきた。二日も時間が飛んだというのに、もう不自然さも感じない。あと少し経てば、時間が飛んだことも気にならなくなるだろう。 一矢は歩調を速めてシギの隣に並んだ。 「なあ、シギ。その箱は何なんだ?」 シギは肩に細長い箱を担いでいる。幅と高さは約三十センチ、長さは約百三十センチ。材質は鉄らしい。結構重い代物なのだろうが、シギは軽々と肩に乗せていた。 「例の研究所から奪ってきたものだ」 「でも、アルテルフ博士ってどこにいるのかな」 メモリアの呟きに、シギが黙り込む。 シギはこの街にやって来ることしか考えていなかったらしい。アルテルフ博士がどこにいるかまでは、気が回らなかったようである。 「分からないなら、誰かに訊けばいいじゃない」 シギを見やり、テイルは言った。 一矢は咄嗟に両手でテイルを隠す。誰かが気づいたと思ったのだ。が、思い過ごしだったらしい。誰もテイルに気づいていない。一瞥すら向けてこない。 「あなた、神経質すぎるのよ。あたしの声なんて、誰も聞いてないって」 一矢の手を払いながら、テイルが言ってくる。その言葉通り、テイルが声を上げても、誰も気づいた様子はない。人々は何事もなく通りを歩いていた。 「訊くつったって、誰に訊くんだ?」 周りを見回しながら、シギが呻く。 それに答えたのはテイルだった。人差し指を振りながら、 「その辺にいる人に訊いても、無駄だと思うよ。アルテルフ博士のことは知ってても、どこにいるかまでは知らないと思うわ」 「じゃあ、どんな人が知ってるかな?」 メモリアの問いに、シギが答える。 「やっぱり、科学者だろ……」 と、一矢に視線を向けてきた。その瞳に映る意思は明白である。鋼の書を使い、アルテルフ博士の居場所を知っている科学者を登場させて欲しい。 「僕はもう、鋼の書を乱用したくなんだけど」 控えめに呟くと、テイルが笑いながら言ってきた。 「大丈夫よ。人間一人を登場させるくらいなら」 「そうか……?」 眉を寄せると、一矢はマントから鋼の書を取り出した。 《それに合わせるように――合わせているのだが、向かい側から白衣を着た中年の男が歩いてくる。この街の科学者だろう》 文章に取り消し線が書かれていないことを確かめ、鋼の書をマントにしまう。 箱を担いだまま、シギは歩いてくる男の方へと足を進めた。気安く声をかける。 「おい、あんた――訊きたいことがあるんだが、いいか?」 「何ですか?」 男は足を止め、シギを見やった。後ろにいる、一矢とテイルも見やる。 「俺たち――アルテルフ博士に会いたいんだ。どこにいるか、知らないか?」 「あなたたち、アルテルフ博士に会いに来たんですか?」 どういうわけだか驚きの表情を見せる。 釈然としない口調で、シギは呻いた。 「それがどうかしたのか?」 「いえ、どんな用事かと思っいまして。博士はこの街で右に出るものがいない天才ですが、筋金入りの変わり者なので、変な用事で訪ねてくる人が多いんですよ」 「………。で、博士はどこにいる?」 詰問するようにシギが尋ねると、男は街の中心の方を指差した。 「アルテルフ博士なら、街の中心にある一番大きな建物――中央科学技術研究所にいるはずです。会えるかどうかは分かりませんけど」 「分かった。ありがとう」 礼を言って、シギは歩き出す。 一矢とメモリアも、後に続いた。 |
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