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第2節 現実の終わり |
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家に帰り、夕食までの空いた時間。 一矢は自室に戻っていた。広いとは言えないが、狭くもない八畳の部屋。壁際の本棚は本で埋まっている。他にも、所々本が平積みにされていた。 いつもなら、この時間は小説を書いているのだが。 「何なんだ?」 ベッドの上に寝転がり、一矢は本を眺めていた。帰り際、小説の使者と名乗る謎の男から渡された本。あれから色々と調べてみたが、表紙が材質の分からない銀色の金属でできていること以外、おかしなところはない。紙が上質な点だけである。 「まあ、いいか」 本を適当に放り出し、一矢は机に向かった。 いつも使っているノートパソコンを取り出してから。 「………」 振り返り、ベッドの上に乗っている本を見やる。 ――パソコンなどでは、真に優れた文章を書くことはできません―― ――生きた文章を書きたいと思うのならば、この本に文章を書き込んで下さい―― 男の言葉が頭に浮かんだ。 一矢はベッドに戻ると、本を手に取る。 それを持って椅子に座り、金属の表紙をめくった。 何も書かれていない、紙。まるで、何かの文章が書きこまれるのを待っているようにも見える。錯覚にしては、現実味があった。 「生きた文章……」 それが自分に足りないものだろう。 この本に文章を書き込むだけで生きた文章を書けるようになる。疑わしい話なのだが、なぜか信じている自分がいた。嘘のような話でも、試してみる価値はあるだろう。事実ならそれでよし、嘘でも失うものはない。 机の上の時計は、四時を示している。 引き出しから取り出した鉛筆を、吸い寄せられるように紙へと近づけていき…… 紙に触れる直前に、手が止まった。 ――小説のために命を懸ける勇気があればの話ですが―― 男が言っていた言葉を思い出す。 「命を懸ける?」 文章を書くのに、なぜ命を懸けなければならないのか。 まさか、この本に文章を書くと、素晴らしい作品と引き換えに呪い殺されるのだろうか。愚にもつかないことを考えて、一矢は失笑した。あの言葉は、何かの例えなのだろう。 そう思って、一矢は白紙に鉛筆を触れさせた。 瞬間。 「………!」 視界が白く染まる。 そして、物語が始まった。 |
11/8/18 |