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第8節 極限の戦法 |
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腕から背骨まで抜ける反動に、慎一は歯を食い縛る。 日暈一族奥義のひとつ、天壊砲。炸成術による純粋な衝撃砲。拡散で放てば、街を数区画消し飛ばせる。そのエネルギーを絞り、蓮次を撃った。戦車すら主装甲ごと貫通出来る自信はある。あるのだが―― 一直線に砕けたアファルト。槍の破片が落ちているが、蓮次の姿はない。消し飛んだのではない。手応えはあった。倒せていない。 哨界の術により居場所を探り、 「左!」 左腕での防御。蓮次の拳が、受け止めた腕を叩き折っていた。金剛の術の上から打ち砕く。昼前に戦った時とは比較にならない力、速度、重さ……破壊力。 慎一は三歩分後退し、踏み止まる。左腕が使い物にならない。 「うが、ぎぃ――あがッ」 涎を垂らし喉を押さえ、蓮次は涎を吐きながら苦しんでいた。全身に血管が浮かび上がり、目の焦点も合っていない。全身を蠢きながら駆け巡る異様な法力。 およそ正常とは言えない姿。 慎一は骨折を治療しつつ、その様子を観察した。退きざまに顔面に掌打を打ち込んだのだが、響いた気配はない。鉄の塊でも殴ったような硬さだった。 「厄介だな。重い。金剛の術でも防げないとなると、受けは通じないかな? このまま術使われると、まともな防御法じゃ捌けないぞ。打撃も効きにくいとなると、僕の得意な正攻法は通じないな……」 「冷静に観察してないで、何とかしなさい。殴り合いはあんたの仕事でしょ?」 結奈が右手を挙げる。地面から現れた綱状の影が、蓮次を拘束した。封力の式を組み込んだ影による拘束。以前の蓮次ならば、完全に無力化できる。 白目を剥き、痙攣する蓮次。 慎一は右手で刀を抜いた。 「おおおおああああああ!」 蓮次から溢れる青い光。狐火が燃え上がる。燃える――という規模ではない。文字通りの火柱と化して、影獣を焼き払った。それだけに留まらず、青白い爆炎と化す。 慎一の放った狐火が、蒼炎を退けた。狐火は狐火によって防ぐことが出来る。 「バケモノか……」 「キエああああッ!」 消えかけた狐火を切裂きながら、蓮次が奇声を張り上げた。血走った目を剥き、肉薄してくる。術も使わず、尋常ならざる身体能力。慎一よりも動きは速い。 結奈の飛ばした影の刃が十数本刺さる。だが、止まらない。 ゴゥ! 風切り音が聞こえた。突き出された右拳を、慎一は左へと跳んで躱した。動きは短調なので回避は容易だが、この打撃を喰らうのはぞっとしない。 「あ、が……うごっ」 蓮次の動きが止まった。結奈の攻撃によるものではない。発作。白目を剥いて影刃を振り払い、胸を引っ掻く。上着が破れ、皮膚が裂け、肉が削げ、血が流れた。 「慎一。本気出した方がいいんじゃない? 気を抜いたら死ぬわよ」 「言われなくとも!」 慎一は右足を踏み出して身体の動きを止めた。 「う、ぐがぁ……」 苦悶の声を上げる蓮次。引き千切られた肉が再生を始め、再び掻き毟られる。尋常ではない。体細胞の異常活性化。それが蓮次の体内で起こっている。 「仕方ないか」 慎一は右手の親指を下犬歯に引っかけた。動作自体に意味はない。心への引き金。 指を押し込む。 ズン――! 全身を走る鈍い衝撃。 脳から脊髄を通り、尻尾の先まで流れていく焼けるような熱。 慎一は息を吐き出し、刀を構えた。 |