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第6節 結奈 対 リリル |
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「うおおりゃあああ!」 突然の絶叫と空を切る轟音。 両者お互いの攻撃に身構えるが――声の主はリリルでも結奈でもなかった。 宙を舞う空刹の大剣。斜めに回転しながら、リリル目掛けて跳んでいく。空刹ではない。宗次郎が力任せに投げつけたのだ。 「後は頼む!」 リリルが大剣を避ける。剣で弾くことはしない。 結奈は口端を上げた。リリルの右腕に噛み付く、黒い狼。 「しまっ……」 結奈の腕から帯のように長く伸びた影獣。褐色の肌に赤い血が滲んだ。鋼鉄程度なら噛み千切れるのだが、そうもいかないらしい。魔法による防御は硬い。 腕を引きながら影獣を縮ませ、結奈はリリルを投げ飛ばした。さらがら一本釣り。 「甘い!」 リリルは剣で影獣を斬り捨て、背中から二枚の黒い翼を広げる。コウモリの羽に似た簡素な翼。青い空と白い雲を背景に、空中に留まっていた。 精霊は何らかの飛行手段を持っている。あいにく人間は飛べない。 「甘いのは、あんたよ」 残りの部分を引き戻し、結奈は人差し指を持ち上げた。指鉄砲のように。 「ばん!」 弾ける爆音と閃光。至近距離からの衝撃に、リリルの意識が飛ぶ。 指から術を放ったのではない。腕に噛み付いていた影獣の残骸が爆裂したのだ。正しくは、影獣にあらかじめ手榴弾を仕込ませ、噛み付かせたのである。大型の音響手榴弾。スタングレネード。 「精霊にも効くのねー」 結奈はちらりと残りの仲間を見やった。 空刹を担いで石盤の元へたどり着いた宗次郎。カルミアも一緒である。空刹は焦げたままだが、意識は取り戻したようだった。結界は何とかなるだろう。 「あたしはあたしの役割を……」 眠気を払うように頭を振ってから、両手を印を結び、許容量限界の霊力を影獣へと注ぎ込む。普段ならこんな真似はしないが、今は他に選択肢がない。 「影術・黒檻」 屋上の床から真上に飛び出していく影獣。 三十匹近い影獣が巨木のように伸びていく。十メートルを越える木のような影が、無数に枝を伸ばし空間を埋める。三秒ほどの時間でリリルを呑み込んだ。 「影潰し」 影で敵を圧壊させる、必殺の大技。だが―― 「舐めるなああッ!」 リリルの咆哮。弾ける赤い光。 渦巻く盛る炎が影を半分以上を焼き散らす。魔剣によるものだろう。威力を抑え込まれたとはいえ、規模は小さな竜巻だった。熱気が肌を突き、薄い痛みが走る。 「でも、これは想定内」 結奈は駆け出した。影獣が足下から伸び、空中に道を作り上げる。 炎が消え、触れ合うほどの距離で視線を合わせる結奈とリリル。両者とも予想済みのこと。リリル右腕を引き絞り、銃口がその右肩に突きつけられた。 「銃口……?」 思わず呟いたリリルに、笑顔で告げる。 「バレットM82対物狙撃銃よ」 結奈はトリガーを引いた。重い炸裂音とともに、肩に跳ね返ってくる反動。徹甲弾がリリルの右肩を砕く。流れ弾が公園の森に突っ込み、細い立木を一本へし折った。 後の修復物リストに立木を追加。 「魔族に銃なんか効かないぜ」 傷口を押さえ、リリルは後退する。 精霊に物理攻撃は効かない。術による干渉しか受け付けない。外見上の傷と痛みくらいは与えられるが、さほど意味はない。だが、それで十分だ。 十数キロもある対物狙撃銃を右手でくるくる回しながら、結奈は笑った。 「あたしの目的、まだ気づかない? もしかして、無理矢理動かした結界、あんたたちにも何か影響あるんじゃないの?」 リリルが眼を向けた、落ちていく腕と魔剣。巨大な影獣が口を広げ、両者を呑み込んだ。そのまま、影の中へと消える。これで魔剣は取り戻せなくなった。 「邪魔なのよ、あの剣。強いし」 「……死にたいのか、お前?」 右腕を再生させ、リリルが牙を剥いた。銀髪が逆立つ。 結奈はライフルを放り捨てた。影獣がライフルを咥え、そのまま呑み込む。 「あたしを殺せば、影獣は剣吐き出すわよ。多分」 |