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第6節 先生の家へ |
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宗次郎の家は、街外れにある一軒家だった。 神社脇の年期を感じさせる旧家。豪邸と呼べるほどではないが、周りにある家よりも二回りほど大きく、立派な塀や門も造られている。植木はきれいに剪定されていた。 「ここが、俺の家だ」 車庫に車を留め、宗次郎が運転席から降りた。 慎一と結奈は書類を持って後部座席から降りる。書類は空刹が以前に調査した事件の概要だった。内容に不審な点はないし、慎一たちが知っているものもあった。しかし、書類には黒塗りの部分も多く、今回の一件の資料はない。 「君たちが僕のことを信用していないように、僕も君たちのことを信用しているわけではありません。お互い様です」 鯛焼きを食べながら、空刹は助手席から降りた。これで八枚目。 宗次郎の家に連れてくることは抵抗があったが、今更隠しても意味はないだろう。何か仕掛けるならば、とっくに仕掛けている。おおむね白だろう。 慎一に抱えられたカルミアが、鯛焼きを見つめた。 「沢山食べますね。クウセツさん」 「甘いものは美味しいですから。いくらでも食べられますよ」 答える空刹に、慎一は胸を押さえる。胸焼けを覚えて、狐耳と尻尾が垂れた。 カルミアは同意したように頷いている。自身の質量以上のものを食べられるなら、鯛焼き八個も食べても何ともないのだろう。 玄関に向かいながら、宗次郎が尋ねる。 「何が起こってるか説明してくれないかな」 九枚目の鯛焼きを口に咥え、空刹は空の袋をマントにしまった。 「イデアル……通称です」 「なんだ、ソレ?」 訝る宗次郎に、慎一が説明する。 「いわゆる結社ですよ。小規模ながら実力者が集まっていて、各国の当局者は苦労してます。組織の目的は新世界の創造と宣言していますが、真偽は不明。現在は資金と武器を集めているようですね。最近ではドイツとギリシャで事件を起こしていました。ありふれた過激思想派テロ組織と言えば、それまでですけど」 近くに来ているという情報は伝わっていた。だが、自分たちが狙われているとは考えていなかった。平和ボケだろう。迂闊だった。 「今回の首謀者は、三級位の狐神の秋村蓮次と、彼に雇われた魔族シェシェル・ナナィ・リリルです。どちらも無名ですが、強いですね」 「物騒だな」 苦笑しつつ、宗次郎は玄関の鍵を開けた。重厚な木の扉を開けて、玄関に入る。掃除されたタイルと靴箱、傘立て、鉢植えの観葉植物。 宗次郎は靴脱ぎ石で靴を脱ぎながら、上がり框へと登った。 「妻と子供は、一昨日から宗家に出かけている。外と連絡取れないから、どうしてるかは分からん。あれでも強いから大丈夫だろうけど」 「……妻と娘? 夜逃げ?」 玄関に入り、結奈が茶化していた。 独り身のように見えるが、宗次郎は妻子持ちである。以前、サークル活動の最中に妻帯者であることを明かしたら大騒ぎになっていた。 スリッパを履いて、宗次郎は言い返す。 「何を言う。娘と息子の教育だ。あいつらも成長したら退魔師になるからな」 「大変ですね」 慎一は靴を脱ぎ、スリッパを履いた。退魔師は基本的に世襲制。子供はほぼ自動的に退魔師になる。血筋以外の者では、上手く術を覚えられないのだ。 「大きな家ですね。木の香りが気持ちいいです」 慎一の腕に抱えられたまま、カルミアが興味津々と視線を巡らせている。室内に漂う木の香り。内装もしっかりしていた。 「築五十年といったところですか」 空刹が靴を脱ぎ、座敷に上がる。マントも帽子も脱がない。 結奈が最後に上がった。 「……先生どんな生活してるの? 准教授に、退魔師に、作家に、夫に、父親、その他趣味多数。あたしも色々無茶してるけど、よく時間と体力持つわね?」 「人の三倍の速さで動けば、三倍の仕事が出来る」 居間に移りながら、宗次郎は言い切る。言うだけならばその通りだろうが、現実にそうはいくまい。人並み外れた人間だとは思っていたが、予想以上である。 「退魔師以外のことは天才的ねー」 「言うな」 退魔師の力は遺伝に因るところが大きいので、無理は言えない。 結奈がソファに座る。宗次郎は隣の台所に向かった。 「先生。カルミアがたくさん食べると思うので、お菓子は大量に」 「お願いします、ソウジロウさん」 慎一とカルミアは声を上げる。 十畳ほどの洋間。ソファがふたつとリビングテーブル、キャビネット、大型テレビが置いてある。余計なものはなく、すっきりしている。 慎一は結奈の隣に座って、空刹を見つめた。刀を横に置く。 「空刹さん、カルミアには何があるんだ?」 「詳細は僕の所まで伝わってはいません。何かを記した記録のようなものが埋め込まれているようです。分解すれば分かりますけど」 空刹はカルミアを見つめた。怪しげに微笑む。 首を振って、カルミアは拒否した。 「嫌ですよ。分解なんかされたくないです!」 「なら、詳細は闇の中ね。この成行きなら、そのうち分かると思うけど。どういう経緯で今の状況になってるか、分かる?」 空刹は結奈を見やり、戻ってきた宗次郎に目を移した。 「お疲れです。宗次郎さん」 「俺は使用人じゃないっての」 湯呑みと大量の茶菓子をテーブルに置き、空刹の隣に座る。 「おいしそうなお菓子です」 腕から抜け出したカルミアが、茶菓子の横に降りた。慎一は空刹を一瞥するが、怪しげな態度は見せない。過剰に警戒することもないだろう。 「いただきます」 言うなり、カルミアは煎餅や最中を包みごと食べ始める。 驚いたように見つめる、結奈と宗次郎。 「よく食うなぁ」 「成長期です」 「違うと思うぞ」 カルミアの返答に、宗次郎は冷静にツッコミを入れた。 |