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第5節 その目的は?


 声のした方から、声の主――ヴィンセントとカラがやって来る。多少の傷は見られたが、無事なようである。この二人が簡単にやられるわけがないが。
「チェインたちはどうした?」
 尋ねると、ヴィンセントは表情を曇らせ、
「部下の方はあらかた倒したのですが」
「気がついたら、チェインはいなくなってたヨ。部下を囮にして、逃げたみたい」
 悔しそうにカラが呟く。が、あまり悔しそうには見えない。
 ヴィンセントが訊いてくる。寒月の左右を見やり、
「明日香さんはどうしたんですか?」
 その言葉に、寒月は気が重くなるのを自覚した。
「ジャックの罠にはまって、離れ離れになった……」
「それじゃ、アスカの居場所は――」
 慌てたようにカラが呟くが。
「居場所だけは分かる」
 寒月は懐から黒い板を取り出した。材料はプラスチック。文庫本ほどの大きさで、液晶モニターと、ボタンがいくつかついている。
 ヴィンセントが覗き込んできた。
「何ですか、その機械は?」
「念のために用意しておいた。GPSを利用した……って分かるわけないか。高性能追跡装置だ。夕方、明日香と話している時に、こっそり服に発信機を取り付けておいた。これで、明日香の居場所が分かる」
「便利だネー」
 カラが呟く。
 追跡装置を操作すると、市内の地図が映し出された。その一角に赤い光る点と、青い点が灯っている。青い点は現在住所。赤い点が、明日香の居場所だ。
 赤い点に絞って地図を拡大すると、そこは市の中心部だった。ここからは相当の距離がある。明日香が走って行けるような距離ではない。
「ちくしょう!」
 寒月は毒づき、追跡装置を握り潰した。ばらばらになった部品が散らばる。その部品を踏みつけ、ヴィンセントとカラに向けて叫んだ。
「明日香は、ジャックたちに捕まった!」
「じゃあ……」
 絶望したように呟くカラに、寒月は告げる。
「明日香は生きている。あいつらが明日香を殺す気なら、出会い頭に殺している。死体をいちいち市の中心――隠れ家なんかに運ぶ必要はないからな」
「では、ジャックたちは何かを企んでいると……」
 ヴィンセントが硬い表情を見せた。
 寒月はそれに頷いて、
「ああ。何かは分からないが、あいつらはとてつもなく恐ろしいことを企んでいる。それが実行される前に、明日香を助け出す!」
「分かりました!」
「分かったヨ!」
 ヴィンセントとカラが力強く頷く。
 寒月は視線を移した。その先には、市の中央に立ち並ぶ高層ビル群が見える。そのどこかに明日香がいるはずだ。自分たちの助けを待っている。
「行くぞ!」
 市の中央目指して、寒月は走り出した。
 それを追って、ヴィンセントとカラも走り出す。

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